部屋でのんびりできない
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隔日で更新できるように頑張ります。
ゲンジロウ爺さんと別れて、馬車の置いてある場所に戻ると、そこには膝を抱えて落ち込むアホ兄弟の姿があった。
「どうしたんだよ? 面接は終わったのか?」
「兄貴ぃ!」
「すみません! 力及ばず……不採用になりました!」
「嘘だろ……?」
剣聖で、勇者で、貴族でもあるゲンジロウ爺さんの口添えがあったのに不採用になるとか、社長の息子が面接で落とされるくらいあり得ないことだ。
「不採用の原因は? 何かあるのか?」
「一日働いたら一日休みたいという主張が通らず……」
「当たり前だろ」
尋ねたのを後悔するくらい、アホらしい理由だった。
一日おきに休んでいたら、週休三日よりも休むことになってしまう。
「毎日働くなんて、俺たちには無理です!」
「今までまともに働いたことが無いんですよ!?」
「そんなことを力説されても」
そもそも、なぜ、俺がアホ兄弟の就職の世話をしなければいけないのだろうか。
「俺たち、戦場で手柄を立てるために上京してきたんです!」
「やはり、ここは兄貴の従者として、一から出直したいと思います!」
「嫌だ。お前たちは故郷に帰れ」
俺が無慈悲に不採用を告げると、アホ兄弟はすぐさま俺の両足にしがみついた。
「そこをなんとか! お願いしまっす! 無給で構いませんから!」
「雑用でも何でもやりますから!」
「くっ、放せっ……! それだけ情熱があるなら、衛兵の仕事でも何でもできただろ!」
結局、アホ兄弟は俺が首を縦に振るまで離れなかったため、預けた馬車の番をするという条件で、暫定的な従者(無給)として採用することになった。
*
馬車から旅の荷物を降ろした後、連れて行かれた部屋は、来賓用というだけあって、かなり贅を凝らしたものだった。
時代かかった古臭さはあるものの、日本のホテルのスイートルームと比較しても豪華さでは遜色がないように思える。
「天蓋付きのベッドなんて初めて見たな」
応接間の隣は寝室になっており、そこにはカーテンの付いた巨大なベッドが置かれている。
正直、俺は自分が横になっても足がはみ出ないベッドを生まれて初めて見た。
「す、凄いです……。なんだか、物語のお姫様になったみたいです」
ライカは女の子らしくベタなリアクションで感動していたが、残念なことにのんびりと旅の疲れを癒すことはできなかった。
水差しとコップを運んできた使用人の女性から、俺への面会を希望している貴族がいる旨を伝えられたからだ。しかも、複数人。
はっきり言って断りたかったが、しばらく王都に滞在する以上、この国を代表する権力者の面子を手当たりしだいに潰して、四面楚歌の状況に陥るわけにはいかない。
入れ替わり立ち代わり挨拶に来る貴族たちを相手に、俺は適当に握手をして、適当に言葉を交わして、適当にまた会う約束をして、その場をやり過ごした。
とても面倒くさかったが、活動資金を援助するという名目でいくらかのお金を渡してくる貴族もいたので、悪いことばかりではなかった。
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