あれとこれをください
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「爵位と領地をくれ」
俺が要求すると、周囲は水を打ったように静まり返った。
「爵位と領地をよこせ」
「――――言い直さなくてもよい」
聞こえている、と。早速、国王は顔をしかめてお困りの様子だ。
「爵位って、王様の裁量でどうにかなるものだよな?」
「なる……というか、爵位の叙勲ができるのは、余だけだ」
「じゃあ、何も問題は無いな」
「問題はある」
国王は苦虫を噛み潰したような顔で、俺を睨みつけた。
「騎士の称号くらいなら、何も問題は無い。ゲンジロウにも騎士号は与えている」
「そうなのか?」
「うむ」
俺が尋ねると、ゲンジロウ爺さんは懐から勲章らしき物を取り出して見せてくれた。
「だが、領地付きとなると、騎士号というわけにはいかん。我が国には、封地を治めることができるのは伯爵以上の貴族という不文律があるからだ」
だが、貴族でもない人間をいきなり伯爵に叙勲するなど前例がない。
それに、同じ勇者なのに片方が騎士で片方が伯爵では均整が取れない。
また、他の貴族からも不満が出る。
そもそも、素人にまともな領地運営ができるはずがない。
国王は畳みかけるように、俺を伯爵に叙勲できない理由を並びたてた。
「加えて言えば、お前に任せられるような適当な土地が無い。だから」
諦めろ――――と言いかけた国王の言葉を遮って、俺は口を開いた。
「土地については、提案があるんだ」
「提案だと?」
「領地は大森林がいい。それで、そこに住んでいる獣人や森人を領民にしてほしいんだ」
俺は大森林について、以前、ボルゾイから聞いた話を思い出していた。
大森林には少数部族の集落が幾つも点在しており、それらに対して国は基本的に不干渉。
自治を黙認する代わりに、積極的な支援もしていない――――だったはずだ。
「元々、放置している土地なんだから、領地として認めてくれても構わないだろ? それに、大森林で生活している獣人や森人なら、土地をうまく活用できると思うんだ」
「そういえば、お前は大森林に転移したのだったな。――――世話になった者たちに、恩返しでもするつもりか?」
「そう受け取ってもらっても構わない」
実際、ボルゾイをはじめとする集落の獣人や森人たちが、正当な権利として大森林で暮らせるようになるのであれば、俺も嬉しい。
(現状、勝手に住んでいるだけだからな)
有り体に言えば、国有地の不法占拠だ。もしくは、野生動物と同じ扱い。
そういうことが積もり積もって、獣人に対する差別を後押しする要因になっているのであれば、取り除く必要がある。
「それで、認めてくれるのか?」
「大森林は余の直轄する土地ではない。ウォートランドはいるか」
「ここに」
国王の横に立ち並ぶ大貴族の中から、白髪の男が前に進み出た。
(ウォートランド……?)
つい最近、耳にしたことのある名前だ。
『フランツさんの身元を預かっている人ですね。侯爵だと言っていたので、多分、直属の上司なのだと思います』
(ああ、そういうことか)
いろいろな情報が、頭の中でつながった。
「大森林の勇者はこう言っているが、卿の意見を聞きたい」
「はっ」
ウォートランド侯爵は、一礼すると、喋りはじめた。
「率直に申し上げますと、大森林は人の手で管理するには広大すぎる土地です。また、数多くの少数部族が暮らしておりますが、それらのすべてを把握し、折衝し、折り合いをつけることは困難であり、恥ずかしながら、現状は持て余していると言ってよいでしょう。なので、適正な管理者を置くということであれば、領地を割譲することにやぶさかではありません」
どうやら、地主からも承諾を貰うことができそうだ。
後は管理者だが――――
「俺を伯爵にすることはできないんだよな?」
「そうだ」
「獣人の代表を管理者にすることもできないか?」
「無理だな。実質的な管理をその獣人に任せるとしても、それとは別に管理者を置く必要がある」
そうしなければ、アルバレンティア王国内に、獣人が独立国を興したのと同じことになってしまうらしい。形式が大事なのだと、国王は強調した。
「誰かいないのか? 伯爵以上の爵位持ちで、統治の経験と実績があって、今、たまたま手が空いていて、大森林に派遣される懲罰的な人事でも文句を言えない立場の奴」
『あ!』
そこまで行ったところで、山田が大声を上げた。
どうやら、気が付いたらしい。
「――――1人だけ。すべての条件に当てはまる男がおります」
「奇遇だな。余にも心当たりがある」
国王は面白くなさそうに、俺をじろりと睨みつけた。
「まさかとは思うが、最初からこれが狙いだったのではあるまいな?」
「最初からじゃなくて、途中からだな」
具体的には、領地を治めるには伯爵以上の爵位が必要だと言われた時からだ。
国王は深々とため息をついた。
「ゲンジロウ、余はお前の言っていたことの意味が、今、正しく理解できたぞ」
「さようでございますか」
「こいつは敵に回しても、味方に取り込んでも、厄介だ。下手に手綱を握ろうとしても、振り回されるだけ。好きにさせておくのが一番だ」
随分と酷い言い草だが、一応、俺の要求は全面的に受け入れてくれたらしい。
その後、国王はフランツを呼んでくるように衛兵に指示を出した。
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