剣聖に評価される
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「まず、見てのとおり体が大きい。これは努力ではどうしようもない、生まれ持った才能だと言えます。勿論、見かけ倒しではなく、腕力や生命力はずば抜けている。フランツ殿の報告にあったとおり、素手での殴り合いならば、獣人に打ち勝つことも可能でしょう」
「防具を着けていない状態で、お前の木剣での打撃に何度も耐えたそうだな」
疑う余地は無い、と。国王は頷き、続きを促した。
「反面、戦闘技術は未熟であると言えます。ただ、勇者である以上、鍛えればすぐに上達するでしょう。度胸については、申し分なし。また、猪突猛進に見えて、その実、きちんと考えて立ち回っている点も評価できます。加えて、若さもある。――――断言いたしますが、覇王丸は数年のうちに私を超える勇者に成長するでしょう」
「それほどか」
何だかよく分からないが、かなり高い評価をもらってしまった。
この国で確固たる地位を築いているゲンジロウ爺さんから高く評価されるということは、真贋も含めて未知数だった俺の価値が、一気に跳ね上がったことを意味している。
国王や大貴族たちの俺を見る目が、明らかに変わっていた。
「ですが、一つだけ。この男の取り扱いについて、進言をさせていただきます」
そんなギラついた欲望に水をさすように、ゲンジロウ爺さんは発言した。
「覇王丸という男は、定められた枠組みの中で育てるべきではありません。それは、お互いに悪影響を及ぼすことになる」
「どういう意味だ?」
「良くも悪くも型破りなのです。単身で敵の拠点に乗り込み、頭だけを潰して脱出するような作戦を、遂行してしまう男ですぞ?」
そのようなことをする兵士が、組織の中で長所を活かせるのか?
また、そのような兵士が一人でもいたら、組織の規律はどうなるのか?
そういうことだ、と。
ゲンジロウ爺さんは諭すような口調で言い、国王も「なるほど」と、あっさり頷いた。
「狼の群れの中に、熊を放り込むようなものか」
「そうですな。子飼いにするよりは、自由にさせる方がよいでしょう。縛りつけずとも、縁が切れるわけではないのです」
何だかく分からないが、かなり酷いことを言われているような気がする。
『放っておけば、良い感じに暴れてくれると思われているようですね』
(害獣かよ)
『また、覇王丸さんが軍に入ると、他の兵士に悪影響が出ると思われているようですね』
(大きなお世話だ)
まさか腐ったミカン理論でディスられるとは思わなかった。
国王はしばらく沈黙していたが、やがて、唇をつり上げた。
「よかろう。ゲンジロウ、今回はお前の口車に乗ってやることにする」
「……」
口車という言葉に、ゲンジロウ爺さんは何も反論をせず、ただ、感謝なのか、謝罪なのか、小さく黙礼だけを返した。
「だが、恩だけは売っておくとしよう。――――覇王丸よ、我が国はお前を勇者と認め、国内でのお前の活動について、十分な支援を約束する。また、オターネストにおけるお前の功績を評価し、褒賞を取らせよう。何か望みのものはあるか?」
「くれるというなら貰うけど。……何でもいいのか?」
「そうだな。余の裁量で、どうにかなるものならば」
何か面白いことでも言ってみせろ、と。
国王は俺を試すように薄笑いを浮かべた。
『どうします? やっぱり、ここは無難に活動資金ですかね?』
(三〇点だな)
そんなものは、確約してくれた「十分な支援」に含まれるものとして、いつでも必要な分を要求することができる。
この場は、もっと大きなことを言って、ビビらせてやるべきだろう。
散々、偉そうに振る舞ってくれた分の意趣返しにもなる。
『まさか、この国をよこせとか言うつもりじゃないでしょうね』
(三〇点だな)
そんな最初から絶対に通らないと分かっている要求をしても、相手を怒らせるか、呆れさせるだけで、こちらには何の利も無い。
相手を怒らせるのではなく、戸惑わせて、悩ませて、困らせる――――そんな要求。
一つだけ、思い当たるものがあった。
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