見覚えある人との再会
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その後、一通りの情報交換を終えたところで、拝謁の準備が整ったと使用人が迎えに来た。
そして、使用人と一緒に、俺たちにとっては見覚えのある男が顔を覗かせた。
「覇王丸君!」
「あんた……たしか……名前……おっさん!」
「フランツだよ!」
俺と元オターネスト市長のフランツは、再会に感激して熱い抱擁を交わそう――――としたのだが、よくよく考えるとおっさんに抱きつかれるのは気持ち悪いので、俺は腕を突っ張ってフランツを押し退けた。
「なぜだ!」
「男に抱きつかれるのはちょっと」
「そんな理由で!? 相変わらずだな、君は!」
フランツも相変わらずの鬱陶しさでまくし立てると、俺の次はハウンドに狙いを定めて熱い抱擁を交わした。
ハウンドは思うところがあったらしく、素直に抱擁に応じていた。
「おっさん、生きていたのか」
「生きていたとも。それもこれも、夜通し馬を走らせて私を送り届けてくれたハウンド君と、私の証言を信じてくれた剣聖殿のおかげだよ。あ、その節はどうも」
フランツは貴族らしさの欠片もなく、小市民のように、ゲンジロウ爺さんにペコペコと頭を下げる。
「覇王丸が日本人で命拾いしたの。名前を聞いただけで同郷だと分からなければ、恐らく、フランツ殿の主張を鵜呑みにすることはなかったと思う」
「私は幸運の持ち主! というわけですね?」
「ま、まあ、そうだの」
ゲンジロウ爺さんは曖昧に頷きながら、フランツから目を逸らした。
どうやら、苦手意識を持っているらしい。
「じゃあ、お咎め無しか?」
「いや。さすがに、そうはいかない。今は処分保留で、西部地方を治めるウォートランド侯爵の預かりになっている。オターネストの執政官の役職も、正式に解かれてしまったよ」
「無職伯爵か」
「ぐっ……恥ずかしながら、そのとおりだよ。はっはっはっ!」
フランツはやけくそ気味に笑い飛ばした後、深々とため息をついた。
「あの……。拝謁の……」
「おっと、そうだった!」
後方でずっと控えていた使用人の女性が意を決した様子で声をかけると、フランツがそれを大声で遮った。
「陛下をお待たせするわけにはいかない。さあ、行こう!」
私についてきたまえ、と。
俺たちを置き去りにして、さっさと部屋を出て行くフランツを追いかけながら、
「あのおっさん、ウザいだろ?」
使用人の女性に話しかけると、女性は一瞬、頷きかけたものの、慌てて首を横に振った。
*
アルバレンティア国王に拝謁する玉座の間への移動中、ゲンジロウ爺さんが並び順や作法などの諸注意を、俺たちに教えてくれた。
「基本的には片膝を付いて頭を下げておればよい。言葉遣いについても、余程無礼にならない限りは大目に見てもらえるだろう。後ろの二人は……そうだの。覇王丸の従者だと思われておるし、獣人ということもある。話しかけられることもないと思うので、終始、頭を下げて無言でいれば、面倒事にはならんはずだ」
「そうさせてもらう」
「わ、分かりました」
ハウンドはだるそうな表情で、ライカは緊張した面持ちで頷いた。
「ずっと、頭を下げていないと駄目なのか?」
「すぐに陛下から顔を上げろと言われるはずだから、それまでは我慢せい」
「面倒くさ……」
最初は礼儀作法など無視してやろうかとも考えたのだが、万が一、ゲンジロウ爺さんが言うような面倒事に発展してしまった場合、ライカとハウンドを巻き込むばかりか、大森林の集落にも悪影響が及ぶ可能性があるため、我慢することにした。
「何かあっても、爺さんがフォローしてくれるんだろ?」
「うむ。そこは任せろ。――――だが、どうするつもりだ?」
「何がだ?」
俺が聞き返すと、ゲンジロウ爺さんは「やれやれ」とため息をついた。
「王国の庇護下に入るのかということだ。勅書にも、そのようなことが書かれておったのではないのか?」
「……ああ、そういえば」
褒美だけ貰って帰るつもりでいたし、最悪、二人目の勇者に会えればそれでいいと思っていたので、すっかり忘れていた。
もはや、俺の中では、拝謁そのものが消化試合みたいなものだ。
「失礼のないように、丁重にお断りするつもりだ」
「いや、お前には無理だろ」
すかさず、ハウンドが冷静なツッコミを入れてくる。
「お前は他人にへりくだることができないだろ」
「そういえば、父上に呼び出された時も……」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
自信たっぷりに安心させようとするが、二人の表情は一向に晴れない。
「お前ら、俺に対する信頼度が低すぎないか?」
低いというか、ゼロの可能性もある。
「ま、まあ、ワシがフォローするから……」
ゲンジロウ爺さんにも気を遣われてしまった。
「ワシが言うのもなんだが、この国は魔王軍を大陸から追い払った後のことも考えて、勇者を囲い込もうとしている節があるからの。利用されるのが嫌なら、借りは作らん方がいい」
「爺さんは借りを作っちゃったのか?」
「仕方あるまい。おぬしだって、獣人の集落には恩義を感じておるだろう?」
それと同じことだ、と。
アルバレンティア王国に召喚された手前、利用されるのを承知で庇護下に入るしかなかったゲンジロウ爺さんは、しみじみと呟いた。
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