石月源治郎
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俺とゲンジロウ爺さんが単なる肩書きではなく、正真正銘の勇者だということ。
地球という惑星の、日本という国の出身であること。
魔王を倒すために、転移により世界を渡ってきたこと。
それらの情報を、ゲンジロウ爺さんの口から説明されたライカとハウンドの二人は、当然と言うべきか、理解不能という感じでぽかんとしていた。
「ま、理解できんのも無理からぬこと。今は、ワシと覇王丸の二人が遠い世界からやって来たということだけ、分かってくれればよい」
「はぁ……。勇者で、ニポンの出身で……」
「まあいいや。俺は気にしないことにする」
なんとか理解しようとするライカと、早々に理解を諦めたハウンド。性格の差が出た。
「さて、説明はこれくらいにして。ここからは情報交換といこうかの?」
「そうだな」
俺が頷くと、ゲンジロウ爺さんは立ち上がり、俺に手を差し出してきた。
「では、改めて。ワシの名は石月源治郎。六五歳。日本にいた頃は、小さな剣術道場の師範をしておったよ。今はアルバレンティア王国に召喚された勇者として、剣聖に祭り上げられておるがの」
「俺は鬼怒川覇王丸。日本にいた頃は高校生だった。……って、召喚って何だよ?」
ゲンジロウ爺さんと握手を交わしつつ、その発言の中に聞き逃せない言葉があったことに気が付く。
「ん? 召喚は召喚ではないのか?」
ゲンジロウ爺さんは、不思議そうに首を傾げた。
「ワシはよく分からんぞ。そういうことは、おぬしの方が詳しいのではないのか?」
「いや、召喚の意味が分からないわけではなくて」
俺が聞きたいのは、そんな方法が可能なのかということだ。
「ふむ。少し待て」
ゲンジロウ爺さんは目を閉じると、何事かをぶつぶつと呟きはじめた。
どうやら、俺と山田がそうしているように、ゲンジロウ爺さんも頭の中で自分の守護天使と会話ができるらしい。
ただ、慣れていないのか、実際に声に出してしまっている。
「えーと、だな。簡単に言うと、こっちの世界の人間に「勇者を召喚しろ」と神託を出して、先に出口を作らせるらしい。その状態で、出口の座標を指定して転移することを召喚といい、安全に世界を渡ることができるのだそうだ」
「マジかよ……。だから、爺さんでも五体満足で転移できたのか」
「おぬしは違うのか?」
「俺はそのまま普通に転移した」
俺が、自分が転移した時の経緯を打ち明けると、ゲンジロウ爺さんは子供から0点の答案を見せられた親のような顔をして、絶句した。
「ワシの相棒が、そんなことをできるわけがないと言っとるが……」
「実際、死にかけたぞ」
「あの時は、たしかに凄い大怪我でしたね」
隣で話を聞いていたライカが同意したことにより、俺の話の信ぴょう性が増した。
「死なずに済んだのは、ひとえにその頑丈な体のおかげというわけか」
「そうみたいだな」
ただ、召喚などという方法があるのであれば、そっちを選択してほしかった。
(そのへんのところ、どうなんだ?)
頭の中で山田に問いかけるが、返事が無い。
(山田? おい、やーまーだー?)
何度か呼びかけるが、やはり、返事が無い。
(あの野郎、逃げやがった……!)
どうやら、都合が悪くなったので職務放棄をしたらしい。
だが、逃げたということは、自分に落ち度があると認めたようなものだ。
大方、俺がトラックに撥ねられて死ぬと決めつけていたため、安全に転移する方法について調べていなかったのだろう。
(これは……。次、仕事部屋に呼ばれた時に鉄拳制裁だな)
もしくは、戦力外通告をしてやるのもいいかもしれない。
「なあ、爺さん。俺と相棒を交換して――――
「お断りする」
俺からの申し出を、ゲンジロウ爺さんは居合のような速さで一刀両断にした。
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