王城にご招待
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隔日で更新できるように頑張ります。
「ゲンジロウ……。貴様、どういうつもりだ?」
突然、恨みがましい声が聞こえてきたので後ろを振り返ってみれば、そこには金髪の男が怒りの形相を浮かべて立っていた。
「絶対に負けないと言ったではないか!」
「簡単に負けないとは言いましたが、絶対に負けないとは言っておりませんな」
「うるさい! そして、貴様! 一度ならず二度までも、この俺に危害を加えようとしたな!」
今度は怒りの矛先を俺に向けて、糾弾してくる。
「偶然、手が滑っただけだろ」
「白々しい嘘をつくな! そもそも貴様らはなんなんだ! 二人がかりで攻撃するわ、終了を宣告した後もそれを無視して攻撃するわ、挙げ句の果てに俺に向かって木剣を投げつけるわ、無茶苦茶だ! 唯一、正々堂々と戦ったのが獣人というのはどういう了見だ!」
「ハウンドだって、似たようなことをしてたじゃん」
土を蹴り上げて目潰しにしたり、木剣を投げつけたり――――
反則ではないが、ハウンドも正々堂々と言えるほど上品な戦い方はしていない。
「それに、俺だって反則はしていないぞ」
「反則は……していないだと?」
金髪の男の声色が、急に静かなものに変わった。
(これは……ブチ切れる一歩手前だな)
嵐の前の静けさというやつだ。これ以上は刺激しない方が賢明だろう。
俺は金髪の男の怒りを鎮めるために、その肩に手を置いて笑いかけた。
「怪我しなくてよかったね?」
「うるさぁぁぁぁい! 俺に触るなぁぁぁぁ!」
嵐ではなく、火山が爆発した。
*
結局、金髪の男は最後まで認めようとしなかったが、条件付きとはいえ、衆人環視の中で剣聖に勝利したという事実を無視することはできず、俺たちは晴れて入国を許可された。
金髪の男とゲンジロウ爺さんが乗ってきた豪華な馬車の後に続いて、俺たちの馬車が大通りをゆっくりと進んで行く。
周囲を複数の兵士に護衛されているため、さながらパレードや大名行列だ。
「なんだか、物凄く目立ってますね……」
荷台から外の様子を窺っていたライカが、緊張した面持ちで話しかけてきた。
「できれば目立ちたくなかったな」
「そうですよね」
「帰りにお土産を買って、名物料理を食って、観光もしたかった」
「完全に旅行ですね」
ライカは呆れたように呟いたが、ボルゾイも見聞を広めるようにと言っていたので、それが間違っているとは思わない。
「ライカも開き直って、観光を楽しむぐらいの気持ちでいた方がいいぞ」
「はい。でも……」
ライカは言い淀み、キャスケットを被り直す。
「周りの視線が気になるなら大丈夫だ。獣人関係のそういう面倒なことは、全部、あいつの顔面が吸い寄せてくれるから」
「聞こえてるぞ!」
御者席からハウンドの抗議の声が上がった。
「お前の鉄の心なら、どんなに罵詈雑言を投げつけられても平気だろう?」
今だって、御者席に黒豹の顔をした獣人が座っているのだから、かなりの注目を浴びているはずだ。
「慣れているからって、何も感じないわけじゃねぇんだぞ!」
「そうなのか? かわいそうに」
「くっそ……! 全然、心が籠もってねぇ!」
ぶつくさと不満を口にするハウンドを宥めるために、俺は幌から顔を出して、外の様子を見た。
馬車は城下町を通り抜けて、王城のある城門方面に向かっているようだ。
通りに面して立ち並ぶ店舗の数々、野次馬や人だかり。
王都の目抜き通りは、さすがの賑わいを見せている。
「用事が済んだら、何か美味い飯でも食おうぜ」
「ボルゾイから預かった金だろ? 無駄遣いしていいのかよ?」
「少しくらいなら、贅沢をしてもいいだろ。だから、それで機嫌を直せよ」
そう言うと、ハウンドは満更でもない様子で頷いた。
「仕方ねぇなー。それで手を打ってやるよ」
(ちょろいな)
とはいえ、王都への移動中は保存食メインの簡素な食事ばかりだったので、味の濃い料理を食べたいと思っているのは、俺も同じだ。ライカもきっと反対はしないだろう。
「俺、肉が食べたいな。塩を振って串で焼いたやつ」
「俺はシチューにパンをヒタヒタにして食べたい」
「いいねぇ」
俺たちがそんな他愛ない会話に興じているうちに、馬車は城門を通り抜けた。
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