剣聖 VS 覇王丸(後編)
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一瞬、視界が真っ暗になる。意識が飛びかけたのだろう。
もしかしたら、脳震盪を起こしているのかもしれない。
だが、俺は気合と根性だけで、なんとか意識を保ち続けた。
「なっ!?」
突然、視界の隅から伸びてきた俺の腕に、ゲンジロウ爺さんはさぞ驚いたことだろう。
ようやく、不意をつくことに成功した。
「捕まえたぞ。ぶっ殺してやる……」
木剣を掴み、ニヤリと笑いながら過激なセリフを口にすると、ゲンジロウ爺さんは警戒感を露にして、大きく後ろに飛び退いた。
――――武器を手放した。
耐えに耐えて、ようやく巡ってきた千載一遇のチャンスだ。
俺は周囲を見回して、全体の位置関係を確認する。
「木剣が無いと困るだろ? ――――返してやるよ」
そう言って、ゲンジロウ爺さんから奪い取った木剣を大きく振りかぶると、
「おおっと、手が滑ったぁぁぁぁ!」
ゲンジロウ爺さんではなく、金髪の男に向かって投擲した。
戦闘技術に関してはゲンジロウ爺さんやハウンドの足下にも及ばない俺だが、投石や投擲に関しては、この限りではない。
むしろ、俺の方が圧倒的に上だという自信がある。
「いかんっ!」
プロペラのように高速回転をしながら飛来する木剣を見て、ゲンジロウ爺さんは瞬時に走り出した。
木剣の軌道上に立ち、腰の日本刀に手をかける。
日本刀の鞘を中心に不自然な風が発生したことが、服の揺れ方で分かった。
「――――ふっ」
一閃。
時間が止まったかと錯覚するほどに引き延ばされた一瞬の中で、ゲンジロウ爺さんは居合の要領で抜刀した日本刀を振り抜いた。
斬撃の衝撃か、それとも風の魔法の効果か。
高速回転していた木剣は、空中で真っ二つにされると同時に、勢いまで殺されて地面に落下した。
そこに、
「もう一本あるぞ!」
「なっ!?」
ゲンジロウ爺さんとほぼ同時に走り出して間合いを半分ほど詰めていた俺は、先程よりも更に近距離から、今度は自分の木剣を投擲した。
「くっ!」
ゲンジロウ爺さんは咄嗟に日本刀から手を放し、飛来する木剣を凝視する。
そして、白刃取りの要領で、高速回転する木剣を受け止めた。
正真正銘の神技。お見事としか言いようがない。
だが――――少しばかり、そっちに神経を集中しすぎたようだ。
「今度こそ、捕まえた」
その間に残り半分の間合いを詰めた俺は、ゲンジロウ爺さんの腕をがっちりと掴んだ。
ゲンジロウ爺さんが「やってくれたな」とでも言いたげな表情で、でも、どこか楽しそうに俺を睨み付ける。
「全部、おぬしの掌の上ではないよな?」
「当たり前だろ」
俺としては、木剣で殴られても即死亡扱いにはしないという確約をもらった時点で、目的は達成している。
それ以外は、予想していたものもあるが、半分以上はただの偶然だ。
「殿下を狙ったのは作戦か?」
「護衛だって言っていたから、偶然、手が滑っても、爺さんが庇うと思っていた」
それに、俺が戦う直前にハウンドが同じことをやっていたのが大きい。
あの時、投擲された木剣を難なく処理する場面を目撃していたおかげで、爺さんを直接狙っても効果は無いと知ることができた。
「日本刀を捨てたのは、どうしてだ?」
「刃こぼれするからに決まっとろうが」
「それじゃ、やっぱり、魔法は連発できないんだな?」
「……そこまで予想済みか」
ゲンジロウ爺さんは、観念したようにため息を吐いた。
魔法を連発できないと思ったのは、ただの勘だ。
ただ、魔王軍のオズでさえ魔法を連発してこなかったので、こっちの世界に渡ったばかりのゲンジロウ爺さんが、連発できるレベルまで魔法を習得している可能性は低いと思っていた。
「それで、どうする? このまま殴り合うか?」
「純粋な力比べて、おぬしに勝てるわけがない。……使わんと言った刀も抜いてしまったし、どう考えてもワシの負けだの」
ゲンジロウ爺さんが俺に手を掴まれたまま、両手を上げて降伏の意を表したため、観衆にも勝敗が分かったらしい。
大きなどよめきが上がった。
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