言葉が通じない
きりのよいところまで毎日投稿できるように頑張ります。
気が付けば、俺は何者かに取り囲まれていた。
全部で五、六人だろうか。
松明の炎に照らし出された茂みの奥から、こちらの様子をじっと窺っている。
俺には茂みの中で人影が動いていることくらいしか分からないが、向こうからは俺の姿がまる見えだろう。
(誰だ? 友好的な相手ならいいんだが……)
『――――あ。やば……』
山田が思い出したように呟いた。
というか、今、確実に「ヤバい」って言ったな?
(おい、山田。どういうことだ?)
『えーと……。な、何がですか? ~♬』
(口笛を吹いても誤魔化せないからな?)
もしかして、山田は俺のことを馬鹿だと思っているのだろうか?
(話さないと酷い目に遭わせるぞ)
『は、話します! あのですね。実は先程の転移は、行先の座標を指定しないランダムなものだったんです』
(ああ)
『そして、この世界は悪魔の陣営――――つまり、魔王軍に世界の七割を支配されています』
(それで?)
『この場所が魔王軍の支配地域である確率は七十%です』
(高すぎる!)
のんびりと空を仰ぎ見ている場合では無かった。
さっさと身を隠すべきだったのだ。
(なぜ、もっと早く言わない!)
『すみません。どうせ転移で死ぬと思っていたので』
(てめぇ……!)
できる限りのサポートをすると言った直後に、この言い草だ。
やはり、山田は信用ならない。
俺は痛みで悲鳴をあげる体に鞭を打って、なんとか体を起こした。
まだ、立ち上がることはできそうになかったので、その場に座り込み、両手を上げて、無抵抗の意思表示をする。
(攻撃してこない。……話の通じる相手なのか?)
逃走することができない以上、俺としては交渉に活路を見出すしかない。
そんなことを考えていると、茂みの中から一人の男が姿を現した。
三十代から四十代の見た目。恰幅の良い体型。
モミアゲまでつながった口髭を生やし、革製の胸当てと兜を身に付けている。
手には、薪でも頭でも簡単に割ってしまいそうな鉈。
どこからどう見ても、山賊だった。
魔王軍ではなさそうだが、人間の中でも命や身ぐるみを剥いでくるタイプの人種だ。
「○△□☆?」
「は?」
「○△□☆?」
何かを質問されたが、何を言っているのか分からない。
(全然、聞き取れない)
『そりゃそうですよ。此処は異世界なんですから、日本語は通じませんよ』
山田が、ここぞとばかりに正論を吐く。
『奇跡を使えば、言葉の壁を取り除くことも簡単にできるんですけど。もう、ポイントが殆ど残っていないんです。辛うじて電撃攻撃が一回できる程度で』
(電撃はやめろ)
トラックに撥ねられた時のトラウマが蘇る。
(しかし、これは困ったな)
俺としても、言葉が通じなくて詰むというアホみたいな結末だけは避けたい。
『それじゃあ、上司にメールで相談してみます。返事がくるまでの間は僕が通訳しますけど、それでいいですか?』
(そうしてくれ)
というか、通訳ができるのであれば最初からやって欲しかった。
「〇◇□□?」
『お前は何者だ? と言っています』
「覇王丸だ」
「ハオウ、マル?」
「そうだ」
俺は頷いて、山賊のおっさんに話の続きを促した。
「△〇〇☆?」
『その怪我は魔王軍にやられたものか? と言っています』
「そうだ。本当は違うけど、そういうことにしておく」
俺は頷いて、腕の痣になっている箇所を抑えて、痛い痛いとのたうち回った。
「□□! 〇〇◇☆〇!」
『大変だ。里に連れ帰って治療をすると言っています』
「チョロいな」
俺は苦痛に耐えるふりをしながら、内心でほくそ笑んだ。
『引くわー』
(うるさい、黙れ)
大げさに痛がる演技はしたが、怪我をしているのは本当なので、嘘をついたわけではない。
その後、俺は山賊に四人がかりで担ぎ上げられて、祭りの神輿のようにえっちらおっちらと運ばれることになった。
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