剣聖 VS アホ兄弟(後編)
前回、ちょっと中途半端なところで終わっていました。
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
その後も、アホ兄弟は息の合った連携攻撃で、ゲンジロウ爺さんを攻め立てた。
『思いのほか、善戦してますね』
(二人がかりの時点で、善戦もクソもないけどな)
これは喧嘩でも殺し合いでもなく模擬戦なので、既にアホ兄弟の反則負けは確定している。
誰も制止しないのは、暫定審判である金髪の男が呆れて物も言えない状態に陥っているからであり、怒涛の連続攻撃をゲンジロウ爺さんが難なく凌ぎ切っているからだ。
足捌き、体捌き、剣捌きを駆使して、すべての攻撃を紙一重で回避している。
剣聖の名に違わぬ流麗な立ち回りに、周囲の野次馬から歓声が上がった。
「応援ありがとう!」
「感謝感激!」
アホ兄弟は、それを自分たちへの声援だと勘違いしたらしい。
(ポジティブなアホって、無敵なんだな)
『すべての精神攻撃を無効化しますからね』
実際、アホ兄弟はアウェーの環境を(勘違いで)物ともせずに、ますます攻勢を強めた。
「もう一押しだ!」
「決着を着けるぞ!」
ここで、アホ兄弟の動きが変わった。
押せ押せの連続攻撃から一転、今度は回り込むように移動して、間合いと位置取りを変化させる。
「む?」
気が付けば、アホ兄弟はゲンジロウ爺さんを挟撃できる絶好の位置取りに立っていた。
「これでトドメだぁぁぁぁ!」
「食らえぇぇぇぇ!」
アホネンが前から、アホカスが後ろから、それぞれ横薙ぎの斬撃を繰り出した。
前後にはアホの二人組、左右からは横薙ぎの斬撃。
俺の目から見て、ゲンジロウ爺さんは初めて回避不可能な状況に陥った。
(ん!?)
その時、異変が生じた。
俺が見ている前で、腰を低く落としたゲンジロウ爺さんの体が、明らかに不自然な加速度でアホネンの背後に高速移動したのだ。
「隙あり」
スコンと。
無防備なアホネンの脳天に、木剣が打ち込まれる。
ゲンジロウ爺さんは立て続けに、必殺必中の攻撃を空振りして体勢を崩しているアホカスに斬りかかった。
「え? あ! うわぁぁぁ!」
流れるような動作で次々と繰りだされる連続攻撃を、アホカスはたったの二回しか防げず、三撃目の振り下ろしがまるで剣道の練習のように前頭部に直撃した。
「そ、そこまでだ! 勝負あり!」
ようやく我に返った金髪の男が、試合終了を宣言した。
その瞬間、周囲は割れるような喝采に包まれる。
「くっそぉぉぉ! あと一歩だったのに!」
「紙一重の差で負けた!」
傍目には剣聖の圧勝劇だったが、頭の中で接戦を演じたと思い込んでいるアホ兄弟は、拳を地面に叩きつけて本気で悔しがっている。
「惜しかった……と言うほどではないが、まあ善戦した方かの?」
「剣聖……」
「俺たち……」
「連携攻撃の練度はなかなかだが、個々の技術はまだ低い。ワシの直属部隊に入りたければ、もっと精進するように。見込みがないわけではないぞ」
一対一の模擬戦でまさかの二人がかりという超ド級の反則を犯した二人を咎めることもなく、ゲンジロウ爺さんは寸評を述べた。
剣聖からの金言を頂戴したアホ兄弟は――――
「隙ありぃぁぁぁぁ!」
「うらぁぁぁ!」
不用意に近づいてきたゲンジロウ爺さんに襲い掛かった。
(あいつら、どうしようもないクズだな)
『救いようがないですね』
こんな大勢の観衆がいる場であんな卑怯な真似をしたら、後に控える俺とハウンドに対する風当たりが強くなるだけなのだが。
「ふむ」
ゲンジロウ爺さんは、飛び掛かってきたアホ兄弟の手を器用に掴むと、まるで合気道の技か何かのように、軽く捻りを加えて投げ飛ばした。
すると、アホ兄弟の体は空中で奇麗な弧を描き、背中から地面に叩きつけられた。
「まただ」
先程、ゲンジロウ爺さんが急加速で攻撃を回避した時と同じように、今度はアホ兄弟の体が空中で急加速した。
「あの爺さん、何かやったよな?」
「そうだな」
俺の問いかけに、隣に立つハウンドが神妙な顔をして頷く。
「多分、技ではなく魔法だと思うけど。……まあ、そのへんを確かめるのも俺の役割なんだろ?」
「そうだな」
ハウンドの問いかけに、今度は俺が神妙な顔をして頷いた。
「あと、できるだけ試合を長引かせて、相手の体力を削ってくれ。そして、ローキックで脚にダメージを蓄積させて、押せば倒れるくらいの状態にして俺に回してくれ」
「無茶言うなっ!」
ハウンドは肩を怒らせながら、ゲンジロウ爺さんの前に歩いて行った。
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