剣聖 VS 〇〇兄弟(前編)
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「お前ら、せめて素振りをしろよ」
「何を言っているんですか、兄貴。これは俺たちが一躍有名になるための千載一遇のチャンスなんですよ!」
「見てください。こんなにも大勢の観客が、俺たちの活躍を心待ちにしているんです!」
二人組の男が言うように、周囲には相当数の人だかりができている。
入国審査待ちの行列に並んで退屈していたところに、それなりに有名人だと思われる剣聖の模擬戦が行なわれることになったのだ。
誰だって見物しようとするだろう。
もっとも、こいつらの活躍を心待ちにしている者は(俺も含めて)一人もいないが。
「まあ、見ていてくださいよ。あんな爺さん、兄貴が手を煩わせるまでもありません」
「今日限り、剣聖なんて名乗れなくしてやりますよ!」
「その自信はどこからくるんだよ」
俺ですら簡単な素振りの動作を見るだけで、ゲンジロウ爺さんの強さを察することができたのに、それを微塵も感じ取っていない時点で、こいつらに勝ち目は無い。
これだけ大勢の野次馬に囲まれても物怖じしない度胸は評価できるが、それだけだ。
「そういえば、お前らの名前は?」
「俺の名前はアホネンです!」
「俺はアホカス!」
「マジかよ」
とんでもないインパクトのある珍名の持ち主だった。
(こいつら、生まれてすぐ、親からもディスられているのか……)
『いやいや。日本人には珍名に聞こえるだけで、実際はありふれた名前なんですよ。多分』
(本当かよ?)
だって、こいつらが死んだら、墓石には「アホ兄弟の墓」とか「二人のアホ、此処に眠る」と彫られるんだぞ?
――――そんなの絶対に笑ってしまう。
「お前ら、絶対に死ぬなよ」
「兄貴……! 任せてください!」
「心配してくれるんですね!」
俺からの激励に、アホ兄弟はますますやる気を漲らせて、ゲンジロウ爺さんに向き直った。
「剣聖! まずは俺たちが相手をさせていただく!」
「俺たちは剣聖の部隊に入ろうと思っていたほどの実力者だ! 覚悟していただこう!」
「……意味が分からんが、まあいいか」
ゲンジロウ爺さんは戸惑いがちに応答して、木剣を正眼に構えた。
「それで、どちらからくるのかな?」
「ふっ……。愚問だな。俺たちは地元で最強の二人組!」
「二人同時に挑戦する!」
「「「「「はぁ?」」」」」
俺と、ハウンドと、ライカと、ゲンジロウ爺さんと、金髪の男の声が重なった。
「うぉぉぉぉぉ!」
「うらぁぁぁぁ!」
止める間もなく、アホ兄弟が左右からゲンジロウ爺さんに斬りかかる。
右からは袈裟がけの斬撃。左からは横薙ぎの斬撃。
ゲンジロウ爺さんはバックステップでそれをかわす。
「まだまだぁぁぁ!」
「うらぁぁぁぁ!」
息を吐く間もなく、異なる角度から突き出される刺突を、ゲンジロウ爺さんは半身になって避けた。
どうやら、地元で最強の二人組というキャッチフレーズは自称ではないらしい。
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