実力を計らせてもらおう
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「き、貴様! この俺にこんなことをして、ただで済むと思うなよ!?」
見上げるほど大きな男にぶん殴られそうになるという非常事態から脱した金髪の男は、我に返った瞬間、顔を真っ赤にして大声で怒鳴った。
「殿下、お止めくだされ」
それをやんわりと諌めたのは、爺さんだ。
(殿下ってことは、こいつ、かなり偉いんだな)
『普通に考えれば王族。しかも、まだ若いので、この国の王子でしょうね』
(王子かよ……)
もし、金髪の男がただの王子ではなく皇太子だったら、この国の将来が大いに憂慮されるところだ。
「多くの民や兵が見ております。傍若無人な振る舞いは控えた方がよろしいでしょう」
「ゲンジロウ! 貴様、この俺の護衛ではなかったのか!」
「そのとおり。護衛ですな」
ですから一度はお守りしました、と。
爺さんは、出来の悪い弟子に言い聞かせるように、金髪の男に語りかけた。
それはそうと、爺さんの名前はゲンジロウというらしい。
「殿下。この場は、まるく収めてはいかがですかな? 見方によっては、我々は全員、あの獣人の少女に救われたことになる。あの少女が大森林の勇者――――覇王丸を止めてくれたおかげで、殿下は大怪我をせずに済み、私は護衛としての責任を取らずに済み、そして、覇王丸は捕まらずに済んだ」
「済んでなどいない! あの男は俺に危害を加えようとしたのだぞ!?」
「ですが、実際には殴られておりませぬ。であれば、ここは広い度量で許すべきでしょう。もし、このような理由で勇者と敵対することになれば、陛下は失望されるでしょうからな」
「ぐっ……!」
結局、最後の一言がトドメになったらしい。
金髪の男は忌々しげに俺を睨み付けながらも、自分の怒りよりも、損得勘定を優先させて、矛を収めた。
「いいだろう……! 今回の貴様の無礼については大目に見てやる」
「別に許してもらう――――
筋合いは無い、と続けようとしたのだが、ゲンジロウ爺さんから「黙っていろ」とばかりに睨まれたので、俺は口をつぐんだ。
「だが、本来の目的は果たさせてもらうぞ! ゲンジロウ、あの男の実力を確認しろ!」
「その必要はありませぬ。先ほど、我々にしか分からぬ言葉のやり取りで、確認をしました。あの者は、私や陛下が探していた勇者で間違いありませぬ」
「本物かどうかは関係ない! 我が国が必要としているのはお飾りの勇者ではなく、魔王軍を討伐するに足る戦力だ! さあ、確認してみせろ! それが貴様の仕事だろう!」
「……やむを得んか」
ゲンジロウ爺さんは観念したようにため息をついて、兵士に指示を出し、詰め所から木剣を持ってこさせた。
「すまんな、覇王丸。おぬしの実力を計らせてもらうぞ?」
「いや、断る」
「何だとっ!?」
俺がゲンジロウ爺さんの申し出をあっさり拒否すると、金髪の男が驚愕の声を上げた。
「貴様、正気か!? この場で勇者としての実力を示さなければ、陛下に拝謁することは叶わんのだぞ!?」
「別に構わない。俺は、そこの爺さんと少し話をしたいだけだから、お前が追い返したことにしてくれるなら、むしろ都合がいい」
「ぐっ! それならば、この場で勇者としての実力を示さない限り、王都への入国も認めないし、ゲンジロウとも話をさせん! これでどうだ!?」
「……ちっ」
どうやら、調子に乗って喋りすぎてしまったようだ。
金髪の男が規則を無視できる程度には高い地位の持ち主だということを忘れていた。
(それにしても、こんなに大勢の人間が見ている前なのに、まったくお構いなしか)
見れば、ゲンジロウ爺さんは渋面を隠そうともせず、金髪の男を睨み付けている。
『王族がいきなり高級な馬車で乗りつけて、一方的に因縁をつけて、法律を強権で捻じ曲げるようなことをしたら、少なくとも、王族のすることは無茶苦茶だって噂になりますよね』
どうやら、金髪の男の存在は、俺たちだけではなくゲンジロウ爺さんにとっても頭痛の種であるらしい。
「仕方ない。これ以上は爺さんが気の毒だからやってやるよ」
俺は金髪の男の申し出を受けることにした。
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