逆鱗案件
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
剣を抜いたのは、最初に俺に話しかけてきた金髪の男だ。
「先程から黙って聞いていれば、どういうつもりだ?」
「何が?」
「なぜ、俺の質問に答えない?」
「質問?」
俺が首を傾げていると、後ろからライカが慌てて駆け寄って来た。
「覇王丸さん。さっき「お前が大森林の勇者か?」って質問されましたよ」
「そうだっけ?」
どうやら、俺はアルバレンティア王国では大森林の勇者と呼ばれているらしい。
(なんだか、野生児みたいで嫌だな)
だが、そう呼ばれているのであれば、仕方がない。
「俺がそう名乗っているわけじゃないけど、多分、それは俺のことみたいだぞ」
「そうか」
金髪の男は不満げな表情のまま頷くと、そのまま視線を隣のライカに移動させた。
「おい、そこの小娘」
「は、はい」
「俺の前に立つ時は、最初に頭の帽子を取れ! 無礼者が!」
「ひっ!」
次の瞬間、金髪の男が横に薙いだ剣が、ライカのキャスケットを弾き飛ばしていた。
隠していた獣耳が、衆人環視の下で露になる。
それを見て、金髪の男は玩具を見つけた子供のように、ライカを嘲笑した。
「何だ、獣人だったのか! 汚らわしい獣の耳を隠して、人間のふりでもしていたつもりか!」
「っ!」
恐らく、それはライカにとって、生まれて初めて「自分が獣人である」というだけの理由で他人からぶつけられる、悪意に満ちた言葉だったのだろう。
一瞬、呆然とした表情を浮かべたが、すぐにその口元をぐっと引き締めた。
表情を変えまいと――――自分が動揺していることを、金髪の男には悟られまいと、必死に堪えているのだ。
当然、金髪の男の行為は、俺の逆鱗に触れた。
「おい。お前、こっちを向けよ」
「何だと? 貴様、誰に向かってそんな口をきいている?」
「知るか」
お前が誰であろうと関係ねぇよ。
金髪の男が視線を戻すのと、俺が拳を振り下ろすのは、ほぼ同時だった。
だが――――
力任せに振り抜いたはずの俺の拳は、ギリギリのタイミングで間に割って入った爺さんに、受け止められてしまった。
「覇王丸、おちつけ。この方に手を上げるのは――――
「うるさい」
「ぬうっ!?」
俺は最後まで喋らせずに、爺さんに掴まれた腕を強引に振りほどく。
「なんちゅう力だ……!」
爺さんは勢いあまってたたらを踏み、金髪の男を咄嗟に庇うことのできない距離まで離れてしまう。
俺は護衛のいなくなった金髪の男を見下ろすと、もう一度、拳を振り上げた。
「ひいっ!」
「覇王丸さん!」
そんな俺を、体当たりをするほどの勢いで、全身を使って止めたのは、ライカだった。
「覇王丸さん、やめてください! 私は大丈夫ですから。ほら、どこも怪我はしていません」
そう言って、頭上の獣の耳をぴくぴくと動かしてみせる。
それに毒気を抜かれたわけではないが、俺は拳を下ろした。
「……ライカがいいなら、まあいいや」
金髪の男を殴る代わりに、ライカの頭を撫でてから、地面に落ちたキャスケットを拾い上げる。
「あ、大丈夫です。どこも斬れていません」
「そうか。よかったな」
金髪の男の剣がなまくらということはないだろうから、剣の腕前がポンコツなのだろう。
俺は手でキャスケットの土汚れをはらい、ライカの頭に被せた。
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