死にませんでした(二回目)
きりのよいところまで毎日投稿できるように頑張ります。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
ぶり返した痛みが、眠っていた意識を叩き起こした。
気が付けば、俺は月明かりの下、森の中の開けた場所に倒れていた。
『生きてる!?』
心の底から恐怖したような山田の声が、頭の中に響く。
『ひぃっ! ば、化け物……!』
(お前、絶対に……後で……)
酷い目に遭わせてやるからな、と。
頭の中でメッセージを送ることすらできない。
耳鳴りと頭痛が酷い。
息ができない……と思ったら、凝固した血が鼻の穴を塞いでいた。
(駄目だ……動けない)
俺は起き上がることも、周囲を見回すこともできず、うつ伏せに倒れたまま、しばし呼吸を整えることに専念した。
『覇王丸さん、大丈夫ですか?』
(うるさい黙れ。ボケ、カス、殺すぞ)
『謝りますから! 勘弁してくださいよ。それより、物凄いことですよ。これは!』
山田は、興奮冷めやらぬ様子でまくし立てた。
『普通、転移なんて成功するはずがないんです。でも、覇王丸さんは生身での転移に成功しました。これはとんでもないアドバンテージですよ! なにしろ、人生を一からやり直す必要がないんですから! 短く見積もっても十年は、他の勇者をリードしていますよ』
(他の勇者だと?)
奇跡ポイントに続いて、また新事実が発覚した。
(俺の他にも勇者がいるのか)
『そのへんのことは、最初に説明したんですけど……』
(聞いてなかった)
『oh……』
無駄にハイテンションな山田の話によると、間違って地球に生まれてしまった勇者は、俺を含めて全部で十人くらいいるらしい。
『でも、その殆どが、転移ではなく転生で世界を渡っているはずです。つまり、彼らはまだ赤ん坊なので、世界を救いたくても何もできないんですよ! 彼らが一人前の勇者として成長するまでの間、覇王丸さんの独壇場というわけです!』
(独壇場ではないだろう)
むしろ、孤軍奮闘しなければならない分、貧乏クジを引かされた状態ではないだろうか。
(そもそも、人類を救えと言われてもピンとこない)
『まあ……。それは、地球で生まれ育ったらそうかもしれませんけど』
(それに、自分が危険な目に遭ってまで、救いたいとも思わない)
『そんなことを言わないでください! 僕もできる限り、サポートしますから!』
山田は必死に懇願するが、信用度はゼロだ。
なにしろ、こいつのサポート(奇跡)のせいで二回も死にかけている。
(まあ、それはともかく……。だいぶ楽になったな)
山田と無駄話をしているうちに、かなり呼吸は落ち着いた。
全身の痛みは相変わらずだが、多少ならば動かせる。
俺は寝返りを打って、うつ伏せから仰向けの状態になった。
夜だ。
森の中にいる。
木々のざわめく音と、鳥の声が聞こえる。
(満月だ……でかいな)
よく見ると、頭上で輝く月の模様は、俗に言う「餅をつく兎」ではなく、まったく見覚えの無いものだった。
此処は自分の知らない世界――――
そのことを急に実感して、思わず身震いをした。
「――――っ!」
その時、カランと音を立てて、倒れている俺のすぐ近くに、松明が投げ込まれた。
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