プロローグ
新連載です。きりのよいところまで毎日投降できるように頑張ります。
昨晩、変な夢を見た。
夢の中で、俺は応接室のような場所にいて、ソファに腰かけていた。
俺の正面には、平凡な顔の男が座っていて、翼も生えていないくせに自分のことを天使だと言い張っていた。
「実は貴方は――――
男は真剣な表情で何かを説明していた。
が。
俺は話の内容を殆ど聴いていなかった。
その時、頭にあったのは、たった一つの疑問。
――――なぜ、こいつは男なのだろうか。
俺は十六歳。健全な高校一年生の男子生徒だ。
普通、俺くらいの年齢の男が、ご都合主義な夢の中で会う天使といえば、美人のお姉さんが定番ではないだろうか?
黒髪ロングの清楚系でも、ゆるふわタイプの癒し系でも、無口で感情表現がちょっと苦手なクールビューティーでもよかったのに。
なぜ、男なのか。
なぜ、意外性を求めてしまったのか。
俺が苛立って、拳を机に叩きつけると、目の前の男はビクッと肩をすくめたものの、すぐに悲しげに目を伏せた。
「……理不尽なことを言っているのは分かっています」
いや、分かってねぇよ。
分かっているなら、なぜ、お前が出てきた? 嫌がらせか?
「でも、こうするより他に方法が無いんです! どうか、ご理解ください!」
ああ、もう、分かった分かった。
夢を見ているということは、眠りは浅いはずだ。
どうせ、もうすぐ目が覚めるんだろう?
もういいから、俺をさっさと現実の世界に戻してくれ。
「はい、では。どうか、段取りどおりにお願いします。通学途中の交差点です」
男は、最後に意味不明なことを口走り――――そして、目が覚めた。
*
(本当に変な夢だったな……あれは)
翌朝、通学途中の交差点。
信号が青に変わるのを待ちながら、俺がぼんやりとそんなことを考えていると、すぐ横から小さな女の子が道路に飛び出した。
――――歩行者用信号はまだ赤。
次の瞬間、女の子はトラックに撥ね飛ばされて宙を舞い、十数メートル先のアスファルトに叩きつけられた。
ゴロゴロと転がり、そして、止まる。
糸が切れた人形のようだった。
現場は、正に阿鼻叫喚。
母親らしき女性の絶叫と、事故の瞬間を目撃した通行人の動揺とざわめきが交錯している。
そんな中、俺は横断歩道を渡ろうとして――――
気が付いたら、夢で見た応接室のような場所に立っていた。
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別作品の「異世界人事部転生」もよろしくお願いします。




