9、自己紹介3
わめく青年に苦笑をこらえながら、サソリは女性の言葉に耳を傾けた。
「選んだ魔物はケット・シー。二足歩行の猫ね。がんがん敵を攻撃するつもりよ。名前はマタタビ。よろしく!」
簡潔な説明を一気に言い切って、女性は満足そうな表情を浮かべた。
それから、最後のひとりに視線が移る。
少年は物怖じするでもなく、まったく表情を変えなかった。声も落ち着いていて、元気を感じさせない。
「選んだ魔物は悪魔です。名前はカイト。どうぞ、よろしく」
誰よりも短い自己紹介だった。
それもしかして名前は本名なのでは、という疑問をサソリはどうにか飲みこんだ。その推測があっているにしろ間違っているにしろ、聞いたところでなんの意味もない。
一通り終わったことを確認したからか、見守るだけだったガイドが話しかけてくる。
「では、これより皆様を異世界へと転送いたしますが、その前に大事なことを。あなたがたは森の中に転送されますが、まずは参加者用の街へと向かっていただきます。雪山の見える方角を目指せば、街を見つけることができると思います」
「目指さなかった場合はどうなるんですか」
少年、カイトが聞いた。
たしかにそのことはサソリも気になった。ガイド、もしくは彼女の属する集団に逆らおうと思ったわけではないが、指示に従わなかった場合、罰則などがあるのだろうか。
カイトの質問に、とがめるでもなくガイドが答える。
「街にはあなたがたにとって有用な、いくつかの施設があります。参加者用の食事も街にしかないので、街にたどり着けなかった場合は、周囲の植物や倒した野生の魔物などを食べることになりますね」
その言葉に何人かが顔をしかめる。
「あとは結魔石の説明ですが……いえ、なんでもありません。それでは、そろそろ転送いたしますね」