86、戦い4
サソリは身体を左右に揺らしてフェイントを入れる。
が、まったく鎧は意に介さず剣を振りおろしてきた。そもそも生物的な意思のようなものを期待したのが間違いだったのかもしれない。なんらかの魔法をかけられて鎧が動いているのだろうし、惑わされなくても当然なのかもしれなかった。
というか、鎧だけだった場合はどうなのだろうか。中に人間が入っていなかった場合は。
鎧だけで動けるのであれば、中に人間が入っているこの状況はハンデをつけられているということになりかねない。鎧だけならもっと自由な動きができるはずだ。あるいは、そのうち手から剣が離れて勝手に斬りかかってくるかもしれないが。
とにかく今はそういうことはなかった。
その幸運に感謝して回避に専念する。
鎧の中身の冒険者、その仲間たちはどうにか鎧を押さえつけて動きを止めようと思っているらしかった。が、まごまごしているだけでなんの行動にも移れていない。まあ気持ちは分からないでもないが。
カイトはそうそうに、魔法使いへ攻撃を加える側へ向かってしまった。
サソリは声をかける。
「そっちの状況は打開できそう?」
「無理そうですね」
「あっさり言わないでよ!?」
向こうさえ解決できればこちらの状況も終わるのではと思ったのだが、まったく期待できそうになかった。