73、後ろから
「試すもなにも」
と、呆れた様子でカイトが言ってきた。
「間違いなくおびき寄せられるわけでしょう?」
そんなことを言う悪魔に、サソリは軽く地面をはさみで叩いて抗議する。
「あまりにもおびき出し方が雑すぎて、嫌になって帰っちゃうかもしれないじゃないか」
「まあ、それならそれで構いませんけど」
そっけない様子でカイトは告げてきた。
相手が騎士団を襲っているから、騎士っぽい姿の人物を用意しておこうというのは、あまりにも短絡的すぎないだろうか。
そんなことを思っていると、グラが言った。
「……というか、あの鎧をそろえるだけでこんなに時間を使ったのか?」
言われて、サソリは全身鎧の男を見た。おそらくは騎士団が使っているものと同じ鎧なのだろう。無理を言って借りてきたのかもしれない。だが、騎士が鎧は誇りだから誰にも貸したりはしないなどとごねない限り、これほど時間がかかったとは思えない。
これはユラユラも疑問に思ったのか、相手に訊ねた。
「今まで鎧を準備してたんですかー?」
「いえ」
と、スウマが首を横に振った。
「鎧はすぐに用意できました。これまではあくまで調査ということだったので……前回よりも念入りに、戦いになった時の対策を整えてきたんです。あくまで主目的は対話ですが、なにが起こるのか分かりませんから」
「なるほどー。どんな対策をしてきたんですー?」
「いえ、それは内緒です。使う必要がなければそれで構わないものですし、魔物のあなたがたにとっては気持ちのいい話ではないでしょうから」
悪戯っぽくスウマが笑う。
さらりとユラユラが話を聞こうとしたが、かわされてしまった。ユラユラもそれ以上その話にこだわろうとはしない。
「それで結局、これからどうするんですかぁ?」
スウマはひとつうなずいた。それから、サソリたち魔物一同を見回した。
「できるだけ騒がしく森の中を進んで、騎士団を襲う魔物をおびき出すつもりです。みなさんは姿を隠して後をついてきてください」
「……目的の魔物が出てこなかった場合はどうするんですかー?」
当然の疑問に、スウマは表情を変えなかった。
「何度か繰り返してそれでも出てこなかった場合は、それを成果にするしかないと思います。出てこなかったという結果が得られたわけですし」
「そうですかー」
マタタビがサソリを向いて言った。
「後をついていく……って、一緒に行かないわけ?」
「人間と魔物が仲良く散歩してたら、目的の魔物だって警戒するでしょ」
「そっか」