72、単純な作戦
全身鎧の人物は、ひとりだけ周囲の雰囲気から浮いていた。他が身軽な格好をしているのにひとりだけ重装備を着ているのだから当然と言える。
なんだあれという空気の中、スウマたちが近寄ってくる。
「ユラユラさんたち……ですよね?」
「そうですよー」
軽い調子でユラユラが返答する。スウマがほっとした様子を見せた。こんな魔物の組み合わせなど他にはなかなか見られないだろうから、そこまで警戒する理由はないと思うのだが。けれど相手は魔物の個人の見分けはつかないのだろうから、仕方ないことなのかもしれない。ユラユラは透けているとはいえ人間のような姿をしているのだから、見分けられても不思議ではないが。
冒険者は最後に別れた時よりも警戒感を見せている。こちらの心変わりなどを心配しているのかもしれない。
が、ユラユラはそれに構わずまったく気楽な様子だった。
「そちらの鎧のかたはどなたなんですかー?」
「ああ……この前もついてきてくれた、冒険者のうちのひとりですよ」
そういうと、鎧の中から声が。
「できればこんな動きづらいもの脱ぎたいんだが」
「ですが、それで魔物をおびき寄せるつもりですので」
本当にそんな単純に上手く行くのだろうか?
「……まあ、試してみるしかないね」
サソリは、どうせ人間たちには伝わらないのだと分かっていたのでためらいもせず、深く息を吐いた。