70、直前2
視線をそらした先ではグラが、昼食用の丸い固形物を指先でつついて愚痴っていた。
「よく分からないよな、ダイレクト社も。中に野生の魔物が入ってこれない謎のバリヤーで街を守るような超技術があるかと思えば、こんな単純な食べ物を持ち運ばせたり」
グラは不満そうに球体を見る。
街で配布されている持ち運べる食料だ。少ない体積で非常にお腹が膨れ、しかも美味。けれど持ち運びに多少なりと手間がかかる。人型ではない魔物にとっては特に。それよりも問題なのはその食べ物がなにでどうつくられたのかも分からぬ得体の知れなさだったが。
「せめて念じればその場で食べ物が出てくる仕組みでも作ってくれればいいのによ」
「だったら、要望でもガイドさんに出してみればいいんじゃない?」
と言ったのはマタタビだ。
「うーん。効果あるか? それ」
「結構あると思うわよ。こないだ要望を出したらすぐに対応してくれたし」
マタタビは満足そうな表情だった。
グラが不思議そうに彼女を見る。
「ちなみにどんな要望を出したんだ?」
「勧誘があまりにも多すぎて迷惑だからなんとかしてほしいって。専用のコーナーを使わないと勧誘できなくなったわ」
「ああ、あれか……よその強いところからも誘われてたみたいだが、受けなくてよかったのか?」
「つまんないでしょ、そんなの。あたしは守られたいんじゃなくて自分で切り開いていきたいのよ!」
そう高らかに宣言すると、
「ほら、さっさと昼食をしまって出発しましょ」