54、少年の身分
「君が?」
と思わず言ったサソリの言葉は、少年には伝わらなかったのだろうが。
少年は真剣な表情をして前に出てきた。若いというよりは幼いと言ったほうが近いだろう。それでも皮の鎧を着込み、短めの剣を腰に下げている。彼が積極的に戦うとは思えないが、自衛のために最低限の装備は必要なのだろう。
そして気になったのは、なぜこんな子供を魔物の徘徊する森へ連れてきたのかということだった。
少年は言った。
「僕はスウマ・トリスペロー。ドルニカ王国の子爵、ハイランド・トリスペローの息子です」
その言葉に軽く魔物側がざわめいた。一番反応したのがグラで、そして一番反応しなかったのがユラユラだった。
唯一相手と話ができるユラユラだけが、そうなんですかー、すごいんですねー、などとほんわかした態度を取っている。
そのユラユラの態度には少年の周りの人間も呆れたようだったが、少年が話を続けてくる。
「今回、僕たちが森に入ってきたのは、魔物の調査をするためです。一緒にいる人間たちは、護衛のために雇用した冒険者の方々です」
「調査ですかー」
サソリは少しだけほっとした。魔物の討伐でなく調査が目的ならば、あるいはこのまま友好的に別れることができるかもしれない。
「その歳で魔物の調査なんて、えらいんですねー」
「……ありがとうございます」
そして、彼は調査している魔物について話し始める。
「僕が調査しているのは騎士を襲い続けている魔物についてです。ご存じかどうかは分かりませんが、最近の魔物には不可解な部分があります。それは罠を張る狡猾さであったり、特定の人間を襲い続ける執着であったりします」
そして、と彼は少し悲しげな表情で言った。
「いま、一匹の魔物によって、次々と騎士が襲われているのです」