5、選び
「どうぞ、こちらから魔物をお選びください」
はやくドラゴンになりたいという青年からの熱烈な声を受けて、ガイドが新しく本を出現させた。六冊ある本が、それぞれの元へと滑らかに空中を流れてくる。
「あっちの本じゃないんだ……」
目つきのきつい女性が、自分たちの購入した、いまだにガイドの近くに浮いている本へと視線を向けた。
わくわくとした表情の青年がふんだくるような態度で、自分の元へと来た本を手に取り、勢いよくページをめくり始める。それに遅れて、他の人たちもおずおずと本を読み始めた。
購入した本に書かれていたのは情緒あふれる文章だったが、いま渡された本に書かれているのは戦うための魔物の性質、長所や短所などだった。一ページに一匹ずつ書かれているそれは、神秘的なところなどなにもなかった。スライムなどの不定形生物や、動く骸骨のスケルトン、豚人間であるオーク、巨人、あるいは狼のような動物など、さまざまな種類がいた。
彼が本を読むのに夢中になっていると、青年の不満の声が聞こえてきた。
「弱そうなドラゴンしか見つからないんだけど! どうなってんだ!?」
「敵を倒すことなどによって手に入れた成長点を使って、強化していただく形になります」
平然としたガイドの声。
「たとえば身体を大きくしたり、牙や爪を鋭くしたり、空を飛ぶための翼を強化したり、などです。属性を強化して聖なるドラゴンにする、頭や腕を増やす、などといったことも可能です。強化する項目によって使用する成長点の量は変化しますが」
「頭とか腕が増えたらかっこ悪いだろ」
青年が不満そうに言う。
話を聞きながら、ページをめくる。獅子の頭に山羊の胴体、尻尾に蛇のキマイラという魔物が目に入った。尻尾を増やせば蛇が増えるということだろうか?
少年の声が聞こえる。
「この場にいる人間で、集団行動をすることになるんですか? それとも別々に行動するんですか?」
「集団行動を推奨いたします」
「……とすると、ひとりだけ水棲の魔物、といった状況は避けたほうがいいみたいですね」
尻尾、尻尾かぁ……。
誘惑にかられながら、彼はさらにページを進めて、どの魔物を選ぶか考え続けた。