49、休憩
グラはじたばたとみっともない取っ組み合いを小猿と繰り広げていたが、マタタビは細身の剣を手足のように操って相手を切り伏せていた。堂々とした態度から自慢げな様子が見て取れる。
しばらくしてドラゴンの牙が猿の背に突き刺さって、グラの戦いも終わった。
もともとの予定だったこともあり、泉のそばで休憩を取る。敵と戦ったあとなのでありがたかった。
「んー、すっきりしたぁ!」
と叫んでいるのがマタタビ。相手をほんろうすることが多いため、同じようなすばしっこい敵と戦えたのが楽しかったらしい。
グラは先ほどの戦いの反省なのか、羽をばたばたさせていた。
「み、見てください。泉、すっごくきれいですよ」
カバが四本の足で跳ねるように泉に近づくと、くるりとこちらを振り向いた。明るい声。
それがマタタビのような底抜けの明るさではなく、空元気だということは聞いていてすぐに分かった。
そしてそれが自分のために無理をしているのだということに思い至って、サソリは自己嫌悪を感じる。だが、その気持ちを無理やり振り払って、こちらを見ている小動物に近づく。
「たしかにきれいだね。雰囲気もあって……倒した魔物とかがいなければもっとよかったんだろうけど」
「そ、そうですね……」
カバが少し困ったような表情をする。
正直な所、サソリはつい先ほどの人間についての出来事を引きずっていた。だが、難しいことを考える必要もない魔物と戦って気が楽になったし、そしてなによりこれ以上カバに気を遣わせるわけにはいかない。
「観光の、ガイドブックを流し読みしたんだけど」
「え?」
「この泉の他にもいろんなきれいな場所や、面白い生き物がいるところがたくさんあるんだって。すごいよね」
「はい……。わたしも、見てみたいです」
静かに会話をしながら、サソリとカーバンクルはじっと泉を眺めていた。