46、人間
頭上から降ってくるマタタビの言葉に、サソリは動きを止めた。
その間にマタタビがよどみない動作で木から降りてくる。同じように様子を確認していたユラユラもすぐに、下へと戻ってきた。
ユラユラもマタタビの言葉に同意する。
「たしかに人間さんたちみたいでしたねー」
人間がいる、という話は聞いてはいた。だがこれほど早く遭遇するとは。
ふたりの言葉を聞いてすっかりサソリは納得したのだが、カイトは慎重だった。
「緑色の光をしていたりはなかったんですか。怪しい点は?」
「なかったわよ。人間だってば」
心外そうにマタタビが言う。
サソリはカイトに聞いた。
「なにか気になることでもあるの?」
「いえ……。魔物が人間に化けている、ということもあるかと思って」
「なるほど……」
言われてみればその可能性はあり得る。たとえば人狼がその正体を現していないなどだ。
「まあでも、とりあえずは人間って考えていいんじゃない。今のところ、わざわざ人間に化ける理由も思いつかないし。何人ぐらいいたの?」
「うーん。あたしが見た限りだと四人だったけど」
訊ねられたマタタビが答えてからユラユラしている幽霊を見ると、彼女もうなずいた。
グラが勢い込んで言った。
「なあ、人間を倒したら、手に入る成長点が高いとかそういうのないんだろうか」
「え、いやー……そういう話は聞かなかったけど。強さによるんじゃないの」
サソリはそう答えた。
すると、マタタビが笑う。どこか挑発的な笑み。
「ふん、倒してみれば分かるでしょ。そんなの」
「そりゃそうだな」
グラは乗り気になったのか、勢いよく尻尾を地面に打ち付ける。
ただ、その後ろからのんびりした声が聞こえてきた。
「私はあんまり気乗りしませんけどー……」
いまにも人に憑りついて呪い殺しそうな幽霊の言葉に、マタタビが腰に手を当てて反発する。
「えー。なんでよ。せっかく見つけたレアな敵なのに」
「ですけどー。人と戦うのはー……」
「わ、わたしも、ちょっと……」
おずおずと、カバが同意した。ここまでだいぶ気合が入っていたようだが、今回のことは別らしい。
話の成り行きに、グラが少し鼻を低くして不機嫌そうにしている。できるだけ敵を倒して成長点をためたいのだろう。
サソリはそちらから顔をそらすと、そばにいる悪魔に訊ねた。
「カイトくんはどう思ってるの」
「どう、と言われても」
彼は面倒そうな表情でいったん言葉を区切ってから、言った。
「異世界の原住民ですよね。殺しちゃっていいんですか?」
場の空気が凍った。