42、朝2
一定の調子で靴音を立て、ユラユラが階段を降りてくる。幽霊の時ならば決してありえない響き。
彼女はサソリの姿に気づいて視線を向けると、いったん足を止めた。サソリがそこにいることが意外だったのかもしれない。
彼女は再び足を進めて階段を降りると、近寄ってきた。互いに挨拶をする。
「起きるの早いんですねー」
「……早い、んですかね。なんとなく目がさめちゃったんですけど」
首を傾げてサソリは言った。
ユラユラが日差しの中に出て、大きく息を吸い込むように両腕を伸ばす。
「普段は早起きとかしませんかぁ?」
「んー……。妹を起こしたりするから、言われてみるとそれなりに早いかも」
「妹さんですかぁ」
言いながらユラユラは腕を降ろした。
「カバちゃんみたいな子ですかー?」
「妹はもっと活発ですね。その活発さを早起きにも生かしてくれればいいんだけど。全然で」
妹がスポーツをやっていること。歳がそれほど離れていないこと。いろいろなことを話す。一緒に行った買い物で、この場所に来るきっかけとなった本を買ったことも。
「私は甥っ子に読んであげようと思って買ったんですよー。言いましたっけぇ」
ユラユラは首をひねる。
「いやぁ、とっても可愛いいんですー」
「じゃあ、その。会えなくてさびしいでしょうね」
「それはまあ、二週間ですからねー」
「二週間……長いなあ」
ユラユラの言葉に、この世界にいる期間を思い出させられて、サソリはややうなだれた。