38、消える人の行き先
「地獄のような場所?」
サソリの不思議がる言葉に対して、カボチャのような魔物は軽くうなずいてみせた。うなずくというか、身体全体でジェスチャーをしたようなものか。
「あんまり街で迷惑行為ばっか繰り返してると、ペナルティを受けるって話は聞いただろ?」
「たしかにそんなことをガイドさんが言ってたけど……。なに、地獄って」
「だからペナルティさ。凶暴な魔物と問答無用で戦い続けなきゃならない、地獄のように思える場所があるんだと。とにかくつらいらしいぜ。あまりにも迷惑行為をしたやつは、そこに送り込まれて二度と帰ってこれないと言われてる。俺なら絶対ごめんだな」
「ふうん……」
木登りを終えて、サソリはなぜかこちらを見物していた他の参加者と交流していた。こちらを初心者だと知って、相手が親切にいろいろ教えてくれているのである。
そんな話題のひとつがペナルティだった。
「言われてる……って、誰も帰ってきてないんだよね。誰が言ったの」
「そりゃもちろん、ガイドだよ。ダイレクト社の社員だ」
「ああ……」
納得の答えに、サソリはガイドの姿を思い描いた。やたら長い名前の会社の社員らしいが、目の前のかぼちゃは社名を省略して読んでいた。
ガイドはたしかに嬉々としてそういうことを話しそうだ。
「脅し、とかではないの? 問題を起こさないための」
「いや、実際に人が消えてるのは間違いないし、戻ってきてない……」
そこで、サソリはカボチャの態度にどこか違和感を覚えた。なにやら口ごもっているように思える。
「なにかおかしいところでもあるの?」
「いや……。消えてるんだよ。人が。確かにペナルティで地獄のような場所に送られてるのかもしれないが」
「うん」
「……もし人知れずに始末されてたら怖いなって思ってな」
「うわぁ」
ないとは、言いきれなかったが。
現実の世界に戻されたということなら全く問題ないが、それを確認することなどできない。
そもそもガイドだちは人の精神を操作できるような話ではなかっただろうか。迷惑な相手がいれば迷惑行為ができないように操作してしまえばいい。それをしなかったということは、実際には精神操作などできないか、あるいはできるだけしたくない理由があるのかもしれない。
まあとりえず。
「人に迷惑をかけないように気を付けるよ」
「おう。そこまで悪質じゃなければ消されないらしいしな」
お互いの表情はどちらも気分の落ち込んだものであるに違いなかった。