35、サソリさんはどうするんですか?
いまだかつて体験したことのない厚みのメニュー表から料理を選んで、食事を始める。なんとなくファンタジーな世界でトン汁定食を食べるのは落ち着かない気がしたが、選んだのは自分である。たくさん食べると意気込んでいたマタタビが、なぜか量を減らしていたのは疑問だった。
パスタを注文したユラユラが、フォークを指で触りながら言った。
「とりあえずー、ご飯を食べたら休憩にしませんかー? 街まで歩きなおして大変でしたしー」
「ま、いいんじゃない。自由行動ってことで」
マタタビがサラダから視線を上げてうなずく。
すると猛烈な勢いでかつ丼を食べていたグラが、口の中の物を飲み込んで不満を述べた。
「もっとドラゴンを鍛えたいぜ。飯も食べたんだから魔物を倒しに行ってもいいんじゃないか?」
「自由行動、って言ったでしょ。別に倒しに行きたいなら倒しに行っても構わないのよ。成長点はみんなに入るし、逆に倒されたときは本人だけがペナルティを受けるけど」
「む……」
言い切ったマタタビの言葉に、グラが考え込んだ。が、どういう結論を出したのかまた勢いよくかつ丼を食べ始める。
その勢いをすごいなと感心しながら、サソリはトン汁を飲んだ。
ガイドからはたくさんの場所に案内され、そして最後に案内されたのがこの食堂だった。お腹が空いていたサソリにとっては長々と別の場所に案内されて嫌がらせのようにも思えたが。
「カバちゃんはどうするの?」
「あ、えっと……その。宿に戻ろうかな、って」
「そっかー……わかったわ」
案内された場所には寝泊りするための施設もあった。寮のようなものだ。野宿などしたくないのでそういうものがあるのはありがたい。
個室で、部屋の中までわざわざ案内されたのだが、そこそこ広く住み心地は良さそうだった。
「ま、マタタビさんは、どうするんですか……?」
「あたしー? あたしはグラと同じね。ささっと魔物を倒して成長点を溜めてくるわ。ふふ、カバちゃんのぶんも成長点増えるから、期待してていいわよ!」
「え、あ……。あのっ。わ、私もついていったほうが……」
「いらない」
はっきりとマタタビが断りを入れた。
「言っちゃ悪いけど走る速度とかあたしのほうが速そうだから。ひとりのほうが身軽よ。……まあ、他の参加者に攻撃されないように気を付けないとだけど」
スタート地点に戻されたことを思い出したのか、ややうんざりしたように顔をしかめる。
カバは納得したのか、ちいさくうなずいた。それからおずおずと、彼女はこちらに視線を向けた。
「さ、サソリさんはどうするんですか?」
その問いに、サソリは動かしていた箸を止めた。
少しだけ考えるが、ほとんどすでにやりたいことは決まっていた。これまで街へ歩いてくる途中では、できなかったこと。
つまり、
「木登りの練習でもしてみようかなって思ってる」
「え……?」
不思議そうにカバの口からつぶやきが漏れる。
まだそんなこと気にしていたのか、みたいな視線をカイトから感じたが、サソリは気づかなかったことにした。