34、装備
装備品専門店、というより工房のようなものは闘技場と併設されてあった。工房で作成した武器や防具をすぐに闘技場で試すことができる。と、つまりそういうことらしい。職人と使用者との認識のすり合わせに利用するらしいが。
迷惑なのは時折遠くから聞こえる人間の歓声と、かすかな魔物の雄叫びだった。闘技場では魔物の姿で戦うことができるし、観客席では人間の姿で観戦することができる。
それらの遠いざわめきを上書きするようにして、マタタビが不満を叫んで毛を逆立てている。
だが案の定、ガイドは平然とした態度を崩さなかった。
「つまりですね、武器も魔物の一部、という考え方なんですよ」
近くにあったサンプルの剣を彼女は手に取り、軽く上下に振る。その切っ先がサソリに向いている。
「正確には、あなたがた参加者が武具を手に入れる方法はふたつあります。ひとつはここで作成する方法。そしてもうひとつはどこか別の場所で手に入れる方法ですね。野生の魔物や人間から奪う方法です。かなりの強運が必要になりますが、もしかしたら伝説級の武器を手に入れて簡単に敵を倒せるようになるかもしれませんね」
「どこかから奪ってきたほうが、良さそうに聞こえるけど」
マタタビが不思議そうに言う。
仲間で武器を使う魔物はマタタビしかいないのかと思っていたが、カイトも武器を検討しているらしい。真剣に話を聞いている。グラは武器が使えるわけでもないのに戦斧などを見て興奮していた。
聞いていない人間がいることも構わないのかガイドは話している。
「成長点を使用して武器を作成する利点は、ふたつあります。ひとつは願った武器をすぐ手に入れやすいということです」
「願った? なにそれ」
「たとえば人間の騎士を倒して、強い武器を手に入れた! 巨大なハンマー! 自分の使う武器は短剣なのに……といった状況になっても困るでしょう?」
「そりゃそうかもしれないけど……うーん。そのくらいなら欲しい種類が手に入るまでがんばればいいんじゃない?」
「それだけではなく、武器を自分の望んだ方向に成長させることができます。切れ味が鋭いだとか、頑丈だとか。切りつけた部分を凍りつかせる、というような特殊能力を与えることもできますね。とにかく、自分に合った強い武器を作りやすいんですよ」
「それはいいわね……でも、成長点を使うってのがちょっと抵抗あるんだけど。もったいなくない?」
マタタビが自分のあごに指を当てて言う。
彼女に対して、ガイドは首を横に振った。
「実感されていると思いますが、強化を重ねるたびにその項目で必要になる成長点は増加していきます。そのことを考えると武器に成長点を割り振っても微々たるものと感じられるようになると思いますよ」
「なるほどね」
ふんふんとマタタビはうなずいた。ケット・シーという猫の姿ではどうも子供っぽいかわいらしさしか感じさせられないのだが、今のような人間の姿だと同じ動作をしていてもなぜか大人びた雰囲気になる。
感情を素直に表現するマタタビとは対照的に、それらを表に出さないらしいカイトがガイドに訊ねた。
「もうひとつのメリットは?」
「なくさないことです」
ガイドがきっぱりと言った。聞いていたマタタビが困惑をあらわにしている。
「人間の騎士から巨大なハンマーを手に入れたとしましょう。ハンマーを使ってどんどん敵をやっつけていく中で、どうしても勝てない強い敵が現れてやられてしまいました。その場合、あなたがたは神殿に戻されて武器は現地に置き去りです」
ガイドが剣を片手でくるりと回すと、自然な動作で床に刺した。建物に傷をつけていいのかとサソリは驚いたが、彼女のような不思議な力を持っている存在ならば簡単に床を直せるのかもしれない。
自由になった手で人差し指を一本立てた。
「もしかしたらその強大な敵が、あなたの残した強いハンマーを使い始めるかもしれませんね。鬼に金棒。手が付けられなくなります」
興が乗ったのかガイドは数回うなずいてみせる。
カイトが話を促した。
「成長点を使うと、武器をなくさなくなるんですか?」
「ええ。成長点を使用して作った武器は、あなたがたの一部、という扱いになりますからね。あなたがたと一緒に神殿に戻されます。壊れたり落とした場合でも、倒されるか街で申請していただければ手元に戻ります。装備を失わずにすむので、安心感がありますよ」
「なるほど」
カイトは相づちを打つと、ちらりと視線を横に並んでいる武器のサンプルに向けた。