33、神殿とマタタビ
見る者に威厳を感じさせるその神殿は、あまりにも巨大だった。意味がないほどに。なんの神を奉っているのかというカイトの質問に、ガイドは平然と魔物の神だと答えていた。カイトは納得していないようだったが。
神殿はその機能故に最初期に作られていて、まだ参加者たちが魔物の姿で闊歩していたころのまま存在しているらしい。だから巨大なのだ。たとえば大きなドラゴンでも神殿の中に入れるように。
神殿の大きさに合わせるように、最初見たものよりも数十倍の大きさを持つ結魔石が、厳かに安置されている。透明な石。その内に光が渦を巻いている。
サソリがその光の流れに見とれていると、ガイドが言った。
「では、再出発地点の設定変更を行います。よろしいですね」
おう! と小さなドラゴンが答えて、仲間たちが各々うなずいた。サソリもガイドへと顔を向けて首を縦に振る。
そして設定の変更が始まった。透明な石の光が一瞬に膨れ上がる。と、同時に自分たちの身体も光り始めた。戸惑ったような少女の声。
いつしか光は静まっていく。
「はーい。お疲れ様です。これで再設定は終了しました。ぶっちゃけほとんどただの演出なんですけど。他の街で設定した場合はここには戻ってこれなくなるのでご注意ください」
「……他の街があるんですか?」
そう聞いたのはカイトだった。
ガイドは軽い態度でうなずいてくる。
「ええ、もちろん。たとえばあなたがたと同期の参加者でも、マーマンとかそういう海の魔物ばかりの場合は海の底の街へ向かっていますね。そういう街の情報もあとで確認できますので楽しみにしていてください」
「分かりました」
ここで無理に聞いても仕方ないと判断したのだろう。カイトが引き下がる。
用事を済ませ神殿を後にすると、道を進んでいく。歩いているとたびたび他の人間から声をかけられるのだが。
「邪魔ですー」
などと言ってガイドが相手をどこかに消し飛ばしていた。怖い。
そのことが気にならないのか、落ち着いた様子でユラユラが言う。
「なんだかぁ、こういうの多いですねー」
「しかたないわ。あたしが美しすぎるせいね」
などとマタタビが自慢げな表情でふっと笑っていたが、そのことに異論があるわけではない。カバから綺麗になる秘訣を訊ねられて、まんざらでもない様子で彼女は答えていた。
そんなマタタビが不機嫌になるのに時間はかからなかった。
「武器を買うのになんで成長点を使うわけ!? おかしいでしょ!」