30、先手必勝
緑の光、それは他の参加者のを示す色だった。
奇襲をかけられて全滅したことが思い起こされる。マタタビが一歩踏み出そうとしてから、動きを止めた。グラも同様に動いていない。真っ先に敵に襲いかかるこの二人が戦いを始めようとしないのは、相手を警戒しているからか。
視線の先にいる多くの魔物の中には、一目でわかるほど強そうな魔物もいた。
たとえば巨大な石のゴーレム、たとえば巨大なタコ。
それらに視線を向けながら、マタタビがささやく。
「ここは先手――」
「おーい。そんな遠くで見てないで、こっちにきなよー!」
先手必勝とでも言おうとしたのだろうか、そのマタタビの声を遮るように声が向こうから響いてきた。ばれている。これではこっそりと逃げることすらできない。
声をかけてきたのは妖精の魔物だった。女性の声。参加者の緑の光と鱗粉の輝きを混ぜ合わせながら、滑るようにこちらへと近づいてくる。
彼女はこちらの仲間を見回してから言った。
「うーん。誰が出るの? ドラゴンくん? でもちょっと厳しいんじゃないかなー」
「なんの話ですかー?」
ユラユラが問いかけた。
質問されたことが意外だったのか、妖精が首を傾げる。こちらとしては当然の疑問だったのだが。
「なんのって楽しい楽しい相撲大会だけど。あれ、混ざりに来たんじゃないの?」
「通りがかっただけですねー。街を目指してるんですよぉ」
「なーんだ。って、目指してる? そっか、初心者の人か。だったら街はあっちだよー。もうすぐそこだね」
妖精が宙に浮きながら、小さな指で方向を指し示している。
どうやら彼女の言葉通り、相撲大会を開催しているようだった。向こうのほうでは先ほど見えたタコが、狼人間を無数の足で押して押して押しまくっていた。どう見ても狼人間は勝てそうにない。
マタタビが警戒したまま言う。
「襲いかかってきたりとか、しないの」
「え、なんで? 普通しないでしょ」
「普通しないんだ……。いや、さっき襲われてスタート地点に戻されたから」
否定する妖精の言葉に、サソリはため息をついた。
予想外のことだったのか、妖精は口を半開きにして驚いていた。それから説明するように言ってきた。
「いや、ほら。そんなことしたら恨まれるでしょ。参加者ってどうせ生き返るから、その恨みはずっと続くわけで。あちこちから目の敵にされたらなんにもできなくなっちゃうよ」
「な、なるほど……」
納得のいく説明を受けて、サソリはうなずいた。それでも他の参加者を襲う人間はいるのだろうが、その数は多くないということなのだろう。
今度は妖精が訊ねてきた。
「参考までに、相手はどんな魔物だったの?」
「ゴブリンにケンタウロスにユニコーン、狼と……ジェル状のなんかドロドロねばねばした感じの奴。スライムとかブロブとかそういうの。あとは鳥っぽいやつがいたね」
「おー、ありがと。一応警戒しておくね」
こちらからも情報に対して礼を言って、その場を後にする。
念のため相手を警戒したまま歩き去って、遠くなったところでようやくサソリは安堵した。
「よかった……こっちから襲いかからなくて」
マタタビが顔をそらした。