3、ガイドさん
その人物は中性的な顔立ちで、スーツを着ていた。声から判断するに恐らく女性だろう、と彼は思った。
「どうぞ、お気軽にガイドさんとお呼びください」
「さらっとさん付けを要求されてる……」
目つきのきつい女性がつぶやく。
訪れかけた気まずい空気を気にすることもなく、ほんわかした雰囲気の人物が、ガイドへとぴょこんと手をあげた。
「あの、ここってどこなんですかぁ。それに、製品を購入したということですけど、なんのことですかー?」
「ここはあなたがたが住む世界とは別にある異空間です。製品というのは、こちらですね」
言葉とともに、表紙に魔物の絵が描かれた本が現れた。
息をのむ。
驚いたのはどちらかというと、本の内容よりも、本が突然現れて空中に浮かんでいることに対してだったが。
その本は自分が購入した本と、たしかに同じだった。ということは、他の人物たちもこの本を購入したということだろうか。
目つきの悪い方の女性が、言う。
「あたしはその本、買ってないんだけど」
ガイドが表情を変えないまま、首を傾げた。
「……窃盗ですか?」
「なんでよ!」
不機嫌そうな声が響く。
「あたしはただ、知り合いからその本を預かっただけ。よく分かんないけど、本を買ったやつに用があるんなら、その知り合いを呼ぶべきなんじゃないの」
「なるほど」
うなずきもせず、真顔でガイドは言葉を続ける。
「本を読んだ人物の意識からタグづけして、この場に招待しております。誤差のようなものです」
「持ち主かどうかは誤差じゃないでしょ」
「たとえ窃盗していたとしても、この場にお呼びいたしましたので。誤差のようなものです」
ガイドに繰り返し告げられて、相手は黙り込んだ。
それから、入れ替わるようにして、冷めた目の少年が声をあげる。
「おかしくないですか。いきなりこの場に連れてこられたのに、だれもがほとんど平然としている。普通は取り乱したりするものなのでは」
その意見を聞いて、たしかに、と彼は思った。
事態に驚いたり、不快感を覚えたりもする。実際に今も、近くの少女がおどおどとあたりの様子をうかがっていた。けれど、そのどれも反応としてそれほど激しいものではない。
質問を受けたガイドが答えた。
「あえていうならば、私から発せられている癒しのエネルギーがあなたがたの落ち着かせています。アニマルセラピーのようなものです」
それは自分が動物のようにかわいいと言いたいのだろうか、と彼は思った。
質問者の少年はそうは思わなかったらしい。
「それは他者の精神を操っている、ということですか」
「そのような言い方もできますね。アニマルセラピーも同じです」
淡々としたガイドの声。
少年は顔をしかめることもなく、けれど吐き捨てるように言った。
「動物のほうが、あなたよりよっぽど信用できると思いますけど」
たしかに、ガイドは得体がしれなかった。先ほど告げられた社名も、まるで聞いたことがない。
いったい何者なのだろうか。