27、にゃー
特にどうということもないのだが、なんとなく沈黙する。
カーバンクルの少女、カバは目を伏せると明らかに慌てふためいていた。もはや怖い見た目だというサソリの状態よりも、今のほうが怖がられているようにすら感じられる。
魔物の姿のほうがすでに、彼女にとって慣れているからだろうか?
落ち込むものを感じながらも、サソリは言った。
「大丈夫。慌てなくてもいいから」
「は、はい…………その、えっと……ありがとう、ございます」
その言葉から、しばらくして彼女はようやく落ち着いたようだった。
思い切ったように顔をあげる。
「あ、あの!」
「うん」
「わ、わたし……頑張りますね!」
サソリは面食らった。なんの話だろうか。頑張るというのは、なにを?
そのサソリの戸惑いを察したのかどうか、カバは言葉を続けた。
「もっとわたしが頑張れていれば……はやくにやられていなければ、みんな戦えたと思うんです。しっかりと回復できていれば……」
それはあるかもしれない。カイトがやられるところは見ていないが、グラやマタタビは回復さえしてもらえていればまた違う展開があったはずだ。反撃に移れていたかもしれない。
ただ、サソリには当てはまらない話でもあった。彼女は知らないだろうが、サソリは敵から攻撃をうけてほとんど一瞬で倒されたのだ。あれではカーバンクルがいても、回復するような時間はなかったはずだ。
拳をぐっと握りしめ、瞳に意思の強さをにじませる少女に向かって、そのことを言うのはためらわれた。
「えっと……お互いに頑張ろっか」
「は、はい……。お役にたてるように、頑張ります」
照れたように微笑む少女の表情は可愛らしいものだったが、すぐに掻き消えた。
マタタビが声を張り上げたからだ。どうやらマタタビも、彼女なりにここまで遠慮していたらしい。
「話は終わったわね! さっさと街を目指すわよ!」
思わず驚いて、視線がマタタビに集中する。
それからサソリは苦笑した。
「もうちょっとのところでやられて悔しかったのは分かるけど、そこまで張り切らなくても」
「そんなんじゃないわよ。装備よ、装備!」
「装備?」
たしかに、もしかしたら街につけば手に入るのではないか、という話を交わしたが。
マタタビは満面の笑顔を浮かべている。
「ガイドさんに確認したけど、やっぱり街で手に入るって! さっさと行くしかないわ!」
「なるほど……」
サソリは武器を使わないので気にならなかったが、マタタビにしてみれば真っ先に確認するような事柄だったのだろう。
確証を得られたことで、気が急いている。
彼女は落ち込んでいたグラを無理やり立たせると、ガイドを呼んだ。
とくに反対意見もないのでサソリは流れに身を任せていたが、ふと考える。マタタビは綺麗な女性で、ファッションにも気を遣い、そして間違いなく成人している。
魔物の時はあまり違和感はなかったのだが。こうして人間の姿を見ていると。この人がにゃにゃにゃと叫んでいたのか、と少しだけ思った。