26、結魔石
恐怖はなかった。
ただ全身を苛む痛みと、そしてわずかな暗い喜びがあった。
そして気づけばサソリは白い空間、ガイドの前に横たわっていた。慌てて上体を起こす。まさか生き返った?
「……ゲームじゃん」
そのつぶやきをかき消すように。
声が響く。
「サソリさん!」
叫んだのは少女だった。近くまで駆けより、途中で足を止める。よく分からないが心配してくれたらしい。
小動物の姿のほうにすっかり慣れてしまったのだが、カーバンクルを選択した少女だった。
ガイドが落ち着いた様子で言った。
「おかえりなさいませ。他の参加者に襲われるとは、運がなかったですね。もう少しで街にたどり着いたのですが」
「……なんで僕はここにいるの?」
当然の疑問をサソリは口にした。
言いながら、周囲を見回す。仲間たち全員の姿があった。ドラゴン好きの青年はなにやら落ち込んだ様子で膝をついているし、カイトはやることがないのかただ突っ立っている。大人の女性陣ふたりはなにやら交流を深めている。
カーバンクルの少女はガイドの話に割り込むことを躊躇してなのか、近くで所在なさげにしていた。
全員同じくらいに敵に倒されたはずだが、サソリと違って他の人々はすでに立ち直っているように見える。時間の流れが違うのかもしれない。
「あなたがた参加者が倒された場合、結魔石がある場所へ戻されることになっています。参加者のかたからは、魔石やセーブポイントなどと呼ばれていますね。街にも結魔石がありますので、そこで更新すれば街へと戻ることができるようになります」
ガイドが懐から石を取りだしてみせる。
不思議な光を内部に閉じ込めた、透明な石。
「やられても復活できるとか、そういうことは先に教えておいて欲しかったんだけど……」
倒された場合まで気が回らずに、質問しなかったこちら側にも非はあるのだろうが。
ガイドはなにも申し訳なさを感じた様子もなく返答してきた。
「死んでも生き返る、などと言っても心から信じていただけるかたは少ないのです。実際に体験したほうが理解しやすいでしょう?」
「それはそうだろうけど……。じゃあ、あの緑色の魔物は? 緑色の光が他の参加者ってことでいいの?」
「その通りです」
「仲間は緑に光ってないのに、他の参加者だけ光るの?」
参加者はまとめて光らせておけばいいような気がするが、なにか理由があるのだろうか。
「最初は識別用の光をつけていたのですが、仲間まで光っているといらいらするとのご意見が多数寄せられましたので。それに対応いたしました」
「あ、そう」
似た魔物との混戦になった時に、仲間が光っていれば見分けるのが便利そうだと思ったのだが。意見を出せばオンオフを切り替えられるようになるだろうか?
ガイドが話を続けてくる。
「倒された場合は成長点が減らされます。これはそれまでの取得成長点から導き出される値と、敵との強さの差によって変動する値の合計が減らされます。未使用の成長点が減らされる成長点よりも少ない場合、未使用の成長点がマイナスになります」
「……マイナス?」
「新たに成長点を獲得した場合に使用することができず、そのマイナスと相殺されることになります」
「なるほど……」
ほかに聞いておくべきことはあるだろうか?
そう考えたのだが、ガイドは話が終わったと判断したらしい。あるいは自分の言いたいことを言って満足したのか。
「異世界へ転送するときはお声掛けください」
と言って下がっていった。
カーバンクルの少女と、目が合う。