23、声
真っ先にユラユラが言いだしたのは、街がないかまた上から確認してみる、ということだった。火を吐いたドラゴンなどは力を使い果たしたように倒れ伏しているのに、彼女にはその様子がない。
正直な所、話す気力もそれほどなかったのだが、それでもサソリは聞いた。
「ユラユラさん、疲れたりしないの?」
「いやぁ、肉体がないからなんでしょうかー。そういうのは全然ー」
「幽霊ってずるい……。攻撃も効かなくて強いし」
両腕を上げて元気をアピールするユラユラに、思わずぼやく。
仲間たちが見ている中、おどろおどろしい幽霊の姿が空へと昇っていく。身体を左右に振って景色を確認しているようだったが、少しして動きが止まった。
宙に浮かぶユラユラの身体が、くるりと下を向く。
「ありましたよー! 街っぽいのが近く――」
唐突なまぶしい光に押されて。
ユラユラの姿が霧散した。消失した身体から残された一部も、散り散りになって消えていく。
なにが起こったのか、意味が分からない。理解が追い付かない。
あるいはしばらく時間が経てば考えがまわったのかもしれないが、それよりもカバの小さな声が聞こえてくる方が早かった。
意味を持たない、ただ音としての声。
疑問に思ってサソリが視線を下げれば、カーバンクルの小さな体に、矢が突き刺さっている。色鮮やかな血が地面にこぼれる。
矢がさらに、カバの身体に突き立つ。
「――っ」
気づけば近くに数匹の魔物がいた。
サソリは悟った。攻撃を受けている。先手を取られ、ユラユラとカバがやられてしまった。
「敵!? なにこいつら!」
マタタビの叫び。
相手は緑の光をまとっていた。弓を持った人馬、カバを射抜いたのはこいつだろう。状況をよく理解できていなかったグラを、ゴブリンが剣で一方的に攻撃している。
カイトはなにか鳥のようなものに牽制されていた。
マタタビの反撃に手傷を負った狼が、奥の一角獣によって回復されて、彼女に噛みついた。
「ふざけんな……」
状況はもう、取り返しがつかない。怒りと絶望が渦を巻く。
ガイドは自分たちを異世界に送ると言った。ここでやられたとき、自分たちはどうなるのだろうか?
「ふざけんな……!」
事態は進行していく。次々と仲間たちは倒れていった。
あっという間に、あっけなく。
サソリに襲いかかってくる水色の液状生物。スライムの表面は、他の魔物と同じようになぜか緑の光に包まれている。その中心にぼんやりと、薄茶色の核のようなものが見えた。
そして声。
「はっはー、らっくしょーだぜ!」
どこから聞こえてきたのか。考えるまでもなく、目の前の魔物からだった。
自分に覆い被さろうとして広がる液体に、憎悪を向ける。そして、出来ることなど一つしかなかった。
振り上げた鋏を敵はなにも警戒に値しないと思っただろう。そのまま自然と伸ばされたサソリの尾が、スライムの身体を突き刺していた。
――ざまあみろ。
せめて、一矢は報いた。
その思いとともに、サソリの意識は液体へと溶けて消えていった。