22、樹木2
一秒にも満たない刹那に、呼吸が震える。
事実として起きたことは、樹木の魔物の枝が、ユラユラの身を突きぬけて行ったということだった。放たれかけていた氷塊が、ユラユラの錯乱によってあらぬ方向へと降り注ぐ。ドラゴンの悲鳴が聞こえる。
錯乱がおさまるのは唐突だった。
自らの身体を突き抜けた枝がまったく刺さっていないことに気づいたのか、その場で身体を左右に揺らしたユラユラは、わ、わー、びっくりしちゃいましたよー、などと照れたように言っていた。
その身体には傷ひとつついていない。
ユラユラは幽霊の魔法使いだ。霊体である彼女には、魔法による攻撃か霊体攻撃の特性を持っていないと傷を与えられない、らしい。
そのことは彼女自身も知っていたはずだが、とっさに人間としての意識が出たのだろう。
身体の動かし方、魔法の使い方、それらのことは魔物となった時に適応し自然と理解させられるらしい。だが、その他の部分では適応しきれていないところもあるようだ。
そのことはいい。いつか最適な行動がとれるようになるだろう。
だが、浮かれた心が冷めていくのは止まらなかった。
あれが生身ならユラユラはやられていたかもしれない。そして、その後は?
なぜこのようなことを自分は考えるのか。ガイドの言うところのアニマルセラピー的な力が、抜け落ち始めているのか。
「サソリさん!」
声をかけられて、サソリは我に返った。
いつの間にか自分の動きが止まっている。樹木の根が薙ぎ払うように迫ってきていた。かけられた声がカバからのものだったことに驚きながら、必死に回避する。
物事を考えている余裕など今はなかった。目の前の敵に集中しなければ。
グラがドラゴンらしく口から火を吐くが、しょぼい! とマタタビの声。悲しいことにサソリの目から見ても、大した攻撃には見えなかった。それが悔しかったのか、グラはもう一度火を吐く。
やがて樹木が力を失い倒れ伏す頃には、サソリたちは疲れ果てていた。