21、樹木
風に揺られるでもなく樹木が動いている。
蛇のようなうねりとともに枝が伸びる。根は地面を離れ新たな一歩を踏み出していた。幹の肌に、しわがれたような顔が見える。
「木が動いた!」
一本ではなく、無数の枝が襲いかかってくる。
警戒していたマタタビやサソリは避けることに成功したが、状況が理解できなかったのかグラは行動が遅れ、枝に打たれて地面を転がった。
真っ先に遠くへ退避していたカバから、癒しの光がドラゴンに向かって放たれる。ドラゴンは立ち上がると、動く樹木へと威嚇するように叫びをあげた。
「ぐぅああおお!」
「カバちゃん、そんなにこまめに回復しなくていいから! どうせそんなに痛くなかったでしょこいつ!」
マタタビが前のほうで軽々と枝をよけながら、器用に叫んだ。
「温存して、温存!」
そう言われてカバが困惑している。必要かどうかを見極めて自分で判断しろと言われても、難しいのだろう。
だが、彼女の癒しの光は無限に使えるわけではないようで、軽い傷で回数を使い切られては困る。
ユラユラの元から氷の礫が放たれ、幹にぶつかって地面に落ちる。あまり痛みを与えられたようには見えない。カイトの魔法も同様だった。
踏み込んで攻撃を繰り出したマタタビが叫ぶ。
「あー、もう。効いてる気がしなーい!」
「マタタビさん、枝は、枝!」
サソリがそう言うと、マタタビはこれまで避けていた枝に攻撃を始める。枝の攻撃してくる瞬間に合わせ打撃を加えると、何度目かでその枝がわずかに折れ曲がった。
樹木が声にならない叫びを上げる。
続くようにしてマタタビが歓声を上げた。
マタタビに負けじとサソリも樹木へ近づくと、その幹へ攻撃を仕掛ける。複雑に動く枝を攻撃できるような器用さは自分にはなかった。
何度か攻撃を食らいながら、尾を突き刺すように木へと振る。わずかずつ、傷が入っていく。
怒りの感情を持ったような枝に弾き飛ばされ、サソリが再び攻撃に戻る前に周囲の状況を確認すると、ちょうど樹木の枝の先端が、ユラユラの身体を貫くところだった。