20、魔物同士
まあたしかに、とカイトは言った。
妖精との戦いでサソリが攻撃を当てられずに悪戦苦闘した姿を見ているので、攻撃を当てやすくしたいという言葉は理解しやすかったのだろう。あの場合は足の速さは関係なかったが。
ドラゴンのグラはまだ元気が有り余っているらしく、魔物を求めて進んでいる。それとは正反対なのがマタタビで、この状況に飽きたのか、手を口に当ててあくびなどしていた。
マタタビが声をかける。
「ユラさん。まだ街とか見えない?」
「見えませんねー」
おっとり、とした様子でユラユラが答えた。できれば期待をかなえてあげたいと思ったのか、ふらふらと左右に漂いながらあちこちに視線を飛ばしている。
一度足を止めて、また上から見てもらったほうがいいかもしれない。
諦めたのか、ユラユラが左右への動きを止める。
「魔物同士が戦っているのとかは見えましたけどー。他はなんにもー」
「なんだと!?」
グラが足を止めて声をあげた。
おおかた自分も戦いたくてしかたないのだろう。
「魔物はどっちだ!」
「だめですよー。まずは街に行くことを優先しないとー」
「だがしかし」
「だめですー」
言葉を繰り返されて、グラが沈黙した。それから若干、視線をそらしながら、
「あー、悪かった……」
と謝りの言葉を告げた。
どうやら前回怒られたときのことが、トラウマになっているらしい。
魔物同士の戦いはサソリも気になったが、こうなっては見物に行きたいなどとは言えない。それに、わざわざ見に行かなくても、機会ならこれからいくらでもあるだろう。
再び歩き始めようとしたところで、カイトが言った。
「魔物同士の戦いですけど、どちらかが僕たちのような……参加者? という可能性はありませんか?」
考えもしなかったことを聞かされて、サソリは驚く。
だが、ユラユラは首を横に振った。
「違うと思いますー」
「どうしてですか?」
「ゴブリンさん数匹と、妖精さんたちが戦っていたのでー」
言ってから、ユラユラは仲間の姿をゆっくりと見回す。
カイトも納得したらしく、かるくうなずいた。
「僕たちのような参加者なら、同じ魔物を選ぶ可能性は低い、ということですね」
たしかにここにいる仲間たちはそれぞれ別の魔物を選んだ。全員が同じ魔物を選ぶというのは、よほど意気投合しないとならないだろう。その場合でも、戦う時のバランスを考えて別の魔物を選びそうだ。
再び歩きを再開しようとした、その時。
「なんか、変な音がしない?」
マタタビの言葉に周囲を警戒して、そしてサソリはうめき声を漏らした。