19、歩く
それから何度か魔物と戦闘を繰り返しながら、森の中を進んでいく。進んでいくといっても距離が分からないため、街へと近づいている、という実感は薄かったが。
それと違い実感できるのは、戦闘を行ったために増やすことができた成長点だった。道のりとは違ってこちらは目に見える。
迷わずに尻尾を強化する。サソリの魔物を選んだのも、二本の尻尾で攻撃したら面白そうだ、と考えたからだった。まったく成長点が足りないので、尻尾を増やすのは当分先のことになりそうだが。
尻尾の力強さを増し、長さも少しだけ伸ばした。
ご機嫌でいると、カイトがこちらをちらりと見てから、視線を元に戻した。
「どうかしたー?」
「いいえ」
カイトは短く否定して、黙々と歩く。
その態度にサソリは、むう、とつぶやいてから更に話しかけた。
「カイトくんはなにを強化したの?」
「その前に。尻尾を強化して嬉しいのは分かりましたから、振るのをやめてください」
「あ、うん」
知らず知らずのうちに動いていた尻尾を、意識して止める。どうやら先ほどのカイトからの視線はそれが原因だったらしい。
尻尾が落ち着くのを見届けてから、彼は返事をしてきた。
「足の速さや魔力量を強化しました」
「足?」
どうやらこの悪魔は魔法を主体に戦うつもりのようだ。それなら足の速さは必要なさそうに思えるのだが、敵の攻撃を回避することが目的だろうか。
だが、カイトの返答は戦闘とはまったく関係のないものだった。
「ここにいる魔物の中で一番、足が遅かったようなので。いちいち止まってもらうわけにもいかないでしょう」
「なるほど」
確かに仲間はそれぞれ歩く速さが違うようだった。あんなに機敏に動いていたマタタビも、今は周囲と速さを合わせている。走る速さと歩く速さで落差があるだけかもしれないが。
「僕も上げようかなぁ」
「それで全員、競争するかのように足の速さを上げていくんですか? 不毛でしょう」
「いや、僕の場合たぶん、攻撃を当てるのにも足の速さは必要そう……」
遠距離攻撃と違って近づく必要があるのだ。