162、エピローグ
サソリとグラは食堂で他の参加者と会話を交わしていた。カイトとカバが紙束に書かれた文を読んでいる。カバがひっそりと縮こまって読んでいるのに対し、なにも気にせず淡々読んでいるカイト。それぞれの違いがよく表れていた。
ほかの参加者の男がうらやましそうに声を上げる。
「えー、いいなー! 俺もそういうのやりたかった。待たせたな! とか言うやつ」
「おお、しまったな……そういう台詞を考えてから登場するべきだった」
グラが空から救援に駆けつけた時の話だ。
男の仲間がうげぇと嫌そうに舌を出した。
「巨大カマキリがそれやっても気持ち悪いだけでしょ」
「ぐぬぬ……偏見反対! やっぱドラゴンかぁ。いいよなー、かっこよくて」
「そうだろそうだろ」
嬉しそうにグラが応じる。
男の仲間が呆れたように言った。
「ならどうしてカマキリなんか選んだんですか」
「いや、最近見た映画でそんなのが出てきたから」
「そんな映画知りませんけど……」
言ってからパンを一かじりして飲みこんでいる。
それから彼は言った。
「ちょっとこっちのカマキリと交換しません? グラさんかサソリさん」
「おい」
「いや、もう二週間たつんで」
「問題はそこじゃない」
騒ぐカマキリの男を無視して話を進める。その仲間がため息をついた。
「来る時間がずれていると仲間の交換もしづらいですよねー……その日ごとに組む相手を変えてる人たちも多いですけど。それで組む相手見つからずに一日無駄にしたり」
「あー」
欲しい仲間を手に入れようと騒がしく言い合っている人々の様子を思い出し、サソリは曖昧な笑いを浮かべた。
「そういうところのシステムがきちんとできてるといいんだけどねー」
「ガイドたちはいろんなところでまったく役に立ちませんからね。期待するだけ無駄でしょう。必要なことも教えてくれなかったりするし。……だから」
彼は言いながら、肩ごしに後ろを指さした。カイトが読んでいる紙束のほうを。もともとはサソリが用意したものだ。
「サソリさんが作ってくれた初心者マニュアルは、ほんと、役に立ってますよ。ガイドが教えてくれない機能が書いてありますから」
「まあ、原形を作っただけで、こっちも助かってるから。他の人が書き足してくれるおかげで知らないことを知れるし」
あまりにもガイドが物事を教えてくれないし、どこからどこまでを教えたらいいのか分からないなどとおかしなことを言っていた。そもそも存在を知らない機能とかもあるので、質問のしようもない。そしてサソリは、ガイドができないなら自分で作ってやる、と知るべき機能や用語、地理などのマニュアルを作ったのだ。もちろん自分も知らないことがたくさんあるので、そのあたりは他の人に書き足してもらう形で。
成長点を手に入れやすい遠い場所の魔物の話とか、こういうことをしたいならどの部位を成長させればいいとか、いろいろ書き足されていたはずだ。
その書き足された部分を読んでいたはずのカイトが、すさまじく顔をしかめていた。
「カイトくん? どうしたの」
「最悪なことが書いてあるんですが。嘘でしょう、これ」
「最悪?」
「……二週間が終わって現実世界に戻ってから、ある程度したらまたこっちに連れ戻されるとかなんとか」
「え?」
思わずつぶやくサソリ。この異世界にきた出来事は、二週間で終わりではなかったのか? カバとグラもいっせいに振り向いてカイトの手元の紙を見た。
カマキリの男が言った。
「あー。お前達知らなかったのか」