152、それで終わり
復活した魔物と戦うのも楽しそうよね。とマタタビが発言したのを聞いて、サソリはなんとなく理解した。
つまりヒカゲは、詳しい話をすることによってこちらが封印を解く側に回ることを懸念していたのだろう。強い敵を倒して成長できるのは人間だけでなく魔物の参加者も同じだからだ。
それがここにきて説明してくれたというのは、話の流れで説明するほかないと思ったのか、あるいは多少は信用してもらえたのか。
彼女は敵を観察していた視線をマタタビに移しながら言う。
「正直な所、倒してしまえるのならば封印が解けても構わないとは思っている。クエストが失敗した形になるのは痛いがな」
それから、冷たい声音で断言する。
「だが、無理なのだ」
「無理、ですかー?」
ふよふよと浮く幽霊の問い。彼女は枝に足をかけてすらいない。
ヒカゲは視線をそらし、人間たちへと戻した。
「王が保証したからな。となると、勝つことはできん」
「王? どういうことよ」
不機嫌そうにマタタビが言う。勝てないと言われたからではなく、言葉の意味が分からないことに不満があるのだろう。
「王だ。ガラスの王。私のような人間をこの世界に召喚し、力を与えた側だ。ということは、彼は私たちの強さを知り尽くしているはずだ。その上で彼は言ったのだ。君たちでは勝てないけれど、戦いたいのならば封印が解けても構わない、と」
「じゃあ無理だね」
ため息混じりな気分で、サソリは言った。封印が解けても構わないと言ったり、封印を強化しろと使命を授けたりするガラスの王とやらの真意は分からないが。勝てるとは思わないほうがいい。封印が解けないように全力を尽くすべきだろう。
ヒカゲがうなずきもせず同意してくる。
「ああ。復活した魔物に勝つことはできん。封印を強化して、それで終わりだ」
そして、言う。
「最初はここへ来るまでの護衛を頼むつもりだったのだが……。君たちには陽動を頼みたい。できるだけ派手に。頼めるか?」
サソリは思わず沈黙した。まったく自分には派手な特技などなかったからだ。歩いていって尻尾で刺すぐらいしかできない。こんな時にドラゴンのグラがいれば、大きく火を吐いて目立っただろうにと思うと残念でならなかった。
それから幽霊を見る。
「ユラユラさんは魔法使いだから、大丈夫だと思う」
「よし。では、そろそろ行こうか」
そう告げるヒカゲの表情はぴくりともうごかず、けれども緊張さえも見えなかった。