15、癒しの光
「……っていうか」
サソリは視線を、先ほどまでカイトのいた場所へ向けた。
可愛らしかった妖精がまるで押しつぶされたかのように地面に倒れ、手足をぴくぴくとさせている。早くカイトを助けなければ、などと思ったのは間違いだったらしい。
「もう二匹もやっつけちゃったんだね」
「誰かさんと違って間抜けなことはしてませんでしたからね」
「うわぁ、コメントが辛口だ……」
というか、飛んでいる相手に攻撃が届かないのはどうしようもないのではないか。
付け足すようにカイトが言った。
「戦闘中でも問題なく成長点は振り分けられましたよ。大勢の敵と戦う時は、それも選択肢に入れてもいいかもしれません」
「あ、そうなんだ。ありがとう。考えもしなかった……。というか、今手に入った成長点も振り分けてなかった。忘れずにやっておかないと」
カイトが呆れたような表情をわずかに浮かべたが、気にする必要もない。尻尾を増やすには成長点がまったく足りないが、そこまで貯めるよりもまずは強化できる部分を強化してしまいたい。
成長点を使用するために意識を集中しようとする。が、近づいてくるカーバンクルに気づいた。サソリへと近づいてきたというより、倒れている妖精が気になっているらしい。
「カバちゃん? どうかしたの?」
「いえ、その…………なんだかかわいそうで」
そう言っているこの小動物が、真っ先に攻撃で狙われていた気がするのだが。優しい心を持つのは大切なことなのかもしれない。
けれど今は間違っていた。
「…………っ」
まるでバネに跳ねあげられるように妖精の身体が浮き上がる。緑の小さな手のひらから光があふれる。なにか攻撃のためであろうことは察せられた。
無防備に近づいてきたカーバンクルへ、最後の力で一撃を与えようとしている。
サソリが願ったよりも、あるいは意識するよりも速かったかもしれない。
伸びた彼の尻尾が妖精の小さな身体を再び貫いていた。
妖精が発していた光が、何事もなせずに消えていく。
小さいうめき声を漏らしながら、カバがあとずさった。
「ごめ、ごめんなさい……私……」
「いやこっちこそごめん」
謝ってくるカバに、逆に謝罪を返す。
「倒したと思って油断して、ちゃんととどめが刺せてなかった」
その言葉に対し、ふるふるとカバが首を横に振る。
気まずい沈黙で時間が流れる。カイトはこの出来事にまったく興味がなさそうにたたずんでいた。彼はまったく気まずいなどとは思っていないのだろう。
それから少しして、うつむきがちだったカバが顔を上げた。
「あの……これからは、もっと、気を付けますね。それと、治療します」
「そんなに痛くはないけど……」
「いえ。また……魔物が出てくるかもしれません、から。万全の状態にしておかないと」
言葉とともに、彼女の額の宝石から、光が放たれた。宝石の深い赤とは違った、優しい癒しの光。
わずかに身体が軽くなった気がする。
お礼を言おうとしたその時、物音が聞こえた。
「あー! いたー!」
その元気な声につられて振り向くと、見覚えのある二本足で立つ猫がいた。続いて幽霊と、元気をなくしたドラゴンがやってきていた。