149、観察の事情
驚くサソリたちに対して、ヒカゲは自らの唇に指を一本持っていった。静かに、ということなのだろう。
どうにか落ち着いてから近づいていく。それに合わせて彼女の手が刀の柄に伸びる。警戒しているということだろう。これは仕方のないことだ。
ヒカゲが順々にこちらの姿を見てから言った。
「私を手伝ってくれる、と受け取って構わないか。ここまできたということは」
「うん。そのつもり」
「ありがとう。一匹……ああ、いや、すまん。ひとり足りないようだが」
「呼び方は気にしないでいいけど……ここに来るまでに人間の参加者と戦闘があって、ちょっと」
「そうか……」
それ以上彼女はなにも言ってこなかったので、サソリは訊ねた。
「封印の場所を目指してるって言ってたけど、なんで木の上に?」
「ああ、そのことか。封印の場所はすぐそこだ。いや待て。近づかないでくれ」
興味深そうに一歩踏み出したマタタビを、彼女は制止する。
不満そうな視線を向けられながらヒカゲが説明した。
「どうにか封印の地までたどり着いたわけだが。すでに敵がそれなりに待ち構えていてな。相手を観察して、機をうかがっていたのだ」
その言葉に、マタタビは納得した表情を見せた。
それから、言う。
「でも、だったらさっさとしたほうがいいんじゃない。悠長にしてたら、あたしが戦ったのと同じような人間がぞろぞろ集まってくるわよ」
「それは、正しい」
ヒカゲがうなずいてから、封印があるらしい方向へ顔を向ける。
「ただ、今は仲間割れをしている真っ最中らしくてな。混乱に乗じるか、数が減るまで待つか悩んでいたところだったのだ」
「は!?」
敵が仲間割れをしているという言葉に、唖然とする。
こちらの驚きようにヒカゲが苦笑した。