148、降りてくる
「――はるかかなたからやってきたーっと」
マタタビの歌う声が歩きながら聞こえる。声が小さいのはさすがに周辺を人間がうろうろしているという状況を考えたのかもしれないが、小さくしたくらいで効果があるとは思えなかった。あるいは、声を出さなくても歩く音を聞き取られ、意味はないのかもしれない。
一応注意はしたのだが、いいじゃん、の一言であまり気にもされなかった。もっと強く言えば違ったかもしれないが。
ただ、あまりそんなことをしたくない気持ちもあった。
「マタタビさんがいてくれて、助かった気がする」
「え、なにが?」
「いや……あのままだと暗い感じをひきずってたかもしれないから。マタタビさんが明るくしてくれて良かったなと」
サソリがそう言うと、マタタビは猫のひげをぴくぴくと震わせたように見えた。
「ふふーん。まあカイト辺りには無駄にうるさいとか思われてるのかもしんないけど」
そして今は、分かっているなら少しはおとなしくすればいいのに、とか思っているのかもしれない。
カイトはこちらへなにも言ってはこなかったが。
それよりもなぜかなにか言いたげな表情でいたカバが、けれども急に立ち止まった。緊張するように雰囲気を変えている。つられるようにサソリたちも歩きを止めると、物音が聞こえる、とカバが言い出した。
「こ、こっち、なんですけど……」
「行ってみるしかないかな。ヒカゲちゃんかもしれないわけだし……」
行き当たりばったりだなとは思った。
カバに先導されて進んでいく。
「あ、あの……。なんだか、変なんです」
「どうかした?」
「なんと言えばいいのか……。物音が、その、大きくなってる気が」
「……? それは、近づいてるから大きくなるんじゃなくて?」
「大きすぎるような……。それに……」
と、話している時だった。少し先にある木の太い枝から、少女が降ってくる。彼女は立ったまま着地すると、ゆっくりとこちらを振り返った。
探していたはずの少女。ヒカゲだった。