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144、倒れている
悲痛な叫びが聞こえたとしても、敵との戦闘のさなかに振り向くことなどできなかった。怪我を負うにつれて大男の動きは鈍っていく。
「……なぜ回復が……テルラルテめ……」
弱々しいうめき声。
最初の苦戦が嘘のように、あっさりととどめを刺す。
回復が途切れた理由は簡単に分かった。すたたたと駆け回るマタタビの凶刃に倒れたからだ。後ろで援護をしていたはずの杖を持った人間と弓使いがすでに地面に転がっている。カイトの魔法攻撃による援護を受けて、相手が回避した隙にもうひとりマタタビは倒していた。
痛々しい声をあげたカバは、無事だった。というより近くのカイトに守られてなにごともなかったに違いない。
彼女のあげた声の原因も分かった。
グラが倒した人間ふたりが倒れている。なんだかんだ頑張って、自分を馬鹿にした人間たちを見返したらしい。
そして、グラも倒れている。相打ちになったらしい。
「……帰ろっか」
呆然とした気持ちでサソリが言うと、カバが悲しげな表情でこくこくとうなずいた。