14、逆立ち
その妖精は木々の合間からゆっくりと姿を現しているところだった。二体、いや三体ほどいる。全体的に緑色で、愛らしいその顔にくすくすと笑みを浮かべている。
確信はなかった。が、サソリは走り出した。そして自らの足が思っていたよりも速いことを知る。妖精の出現に瞳を輝かせるカーバンクルの元へ、あっという間に辿りつき、ほぼ同時にサソリの表皮で魔法が弾けた。
「…………!?」
小さく悲鳴をあげて、カバが後退する。サソリの見た目に怯えたのではなく、妖精が攻撃してきたことに驚いたのだと信じたい。
「敵だ!」
こんなにすぐ戦闘になるならば、さきほど増えていた成長点をさっさと使っていればよかったかもしれない。
鋏を振り上げて、ふしゃー、と威嚇してみたりする。が、残念ながら効果はなかったようだ。妖精は笑みを浮かべたまま宙を漂っている。
そのうちの二体が興味を惹かれたのか、カイトのほうへ向かっていった。
残りの一体の妖精がこちらへ近づきながら小さな光の玉を作り出し、次々にこちらへと放ってくる。その光を左右の鋏で叩き落とし、間に合わないものは表皮が弾いた。さいわいなことに我慢できないほど痛くはない。
はやく目の前の敵を倒して、カイトの援護に向かわなければならない。カイトがどれだけ戦えるのかは分からないが、二体相手というのはまずいだろう。
と、思ったところで気づいた。敵は倒さなければならない。が、
「うわっ、鋏が届かない!?」
ぶんぶんと鋏を妖精に向けてもまったく届く様子もなく、ならばと尻尾を振り回してもぎりぎり間合いの外にいた。
その様子を見て、妖精がからかうような表情を浮かべている。
「ぐぬぬ……」
なにか手はないか。この背に羽根さえあれば楽に攻撃できたのだろうが。
さらに妖精は光の玉を放ち続けてくる。
「それ魔法じゃないの!? 魔力とかどうなってるのさ!」
まったく途切れない攻撃にそんな叫びさえしてしまう。
こちらに攻撃手段がないのであれば、一方的に攻撃を受けるだけだ。後ろのカバも回復用の技を習得したと言っていたので、攻撃手段はないだろう。
どうしようもない。
(いや……)
本当にそうだろうか。
自分の能力を考え直して、サソリは覚悟を決めた。身体に力を込める。
「とうりゃあああ!」
全身が跳ね上がる。今まで身体の後部を持ち上げ尻尾を伸ばしていたのを、全て持ち上げる。天地が逆転するような感覚に襲われた。
わずかに伸びた射程、尻尾の針が妖精の身体を貫いていた。
「なにやってるんですか」
いつの間にか近寄っていたカイトが、呆れたように言ってくる。
仰向けになった身体を揺さぶって、どうにか体勢を整えたサソリはほっとしながら言う。
「とにかく攻撃を当てなきゃと思って……」
「まあ、いいですけど。逆立ちに負けるとか、この敵は史上最も情けないやられかたをした気がしますね」
「えー……」
努力を否定された気になって、サソリは不満な声を出した。