13、飛べない魔物たちの憂鬱
どうにか立ち直ったサソリは考え込んだ。
「なにか怖がられずにすむ方法はないかな。成長点で見た目とか変えられたらいいんだけど、どう考えても強くなってより怖くなる方向性しか見えないし……うーん」
「なに馬鹿なことを言っているんですか。他に考えることがあるでしょう」
サソリは本気での言葉だったのだが、カイトに切って捨てられた。他人にたいして興味がなさそうなこの悪魔なら、その意見も不思議ではないが。
花でも飾っておけば可愛くなるのではないかという考えを一時中止して、カイトに聞き返す。
「他に考えることって、たとえば?」
「僕らには進むべき方向が分からない、ということです。雪山の方角に目指すべき街があると言われましたが、肝心の雪山が見えません」
「え」
指摘されてサソリは声を漏らした。
祈るような気持ちで周囲を見回すが、森の中、どこを見ても緑の葉に覆われた木々しか見えない。陽光が入ってくる程度に間隔はあったが、それでも樹木に遮られて遠くを見通すことはできなかった。
困惑するサソリに、カイトが告げてくる。
「雪山を見つけるには空を飛ぶなり木に登るなりするしかありませんよ。サソリさんは登れますか?」
「…………」
少し考え込んでから、のろのろと頭を横に振る。
「身体の性能的には登れるのかもしれないけど……。木からうっかり落ちた時のことを考えると怖いかも」
「そうですか」
カイトは尻込みするサソリを責めるでもなく、やや上を見ながら言ってくる。
「僕にも翼がありますけど、残念ながらまだ飛べません。あの幽霊や猫がいたなら話は早かったんでしょうけど」
「それは……」
幽霊のユラユラは最初から宙に浮いていた。もう少し高く浮けば雪山を見つけることができただろう。
ケット・シー、二本足で立っていた猫のマタタビのあの身軽さを思い出せば、木登りくらいは簡単だったように思える。
期待を込めて、視線をちらりと向ける。
「…………」
「無理だと思いますよ」
カイトがこちらを見ながら、失礼なことを言いきった。
だがサソリに視線を向けられたカバも、いくら小動物のような魔物とはいえ、木登りを頼まれたら困るだけだろう。あるいは中身がもっと快活な人間なら違ったかもしれないが。
カイトが、仲間のいなくなった方角へ顔を向ける。
「もしここにいない三人が戻ってこなかったら、魔物を倒して翼を強化するしかありませんね」
「翼かー……サソリに羽根とか、うーん」
羽があれば便利そうな気はするけれども。だがあれもこれもと付け加えていったとして、器用貧乏にしかならないような気もする。
(尻尾、強化したいしなー……)
考えるサソリに対し、カイトがわずかに翼を動かしてみせる。たしかに飛べないらしい。身体もそう大きくないので、飛べてもよさそうなものだが。
「こっちには最初から翼があるんですし、あなたがとらなくても僕が翼を強化しますよ」
「あ、うん、ありがとう」
素直に感謝の言葉を口にする。
悪魔はなにかを言いかけたが、その途中で口を閉じた。改めて出てきた言葉は最初のものと違っていただろう。どちらかというと、独り言のようなものだった。
「成長点が、増えてる」
「え?」
カイトの言葉に、サソリは意識を集中させて念じた。そうすることで意識に成長点を割り振る画面を浮き上がらせることができる。
そして、カイトの言ったように、たしかに残りの成長点が増加していた。
黙り込んでいるカイトに話しかける。
「もしかしてこれって、仲間が倒した魔物のぶんも、成長点が入ってきてるとか……?」
「そうでしょうね。まさか、すこし身体を動かしただけで成長しているわけではないでしょうし」
「ゲームじゃん……」
なんで自分がなにもしていないのに成長点が入っているのか、もはや意味が分からない。いや、もらえるのはうれしいが。
このことについてカバにも話しかけようとして、ちょうど彼女の声が響いた。
「わあ……!」
カーバンクルのつぶらな瞳の視線の先には、小さな妖精の姿があった。