12、怖くないランキング
カバへと視線を向ける。この場所へ送り込まれた最初はぴょんぴょんと跳ねたりして、ある程度楽しそうな様子を見せていた。置いて行かれた今となってはそんな気分になれないのか、彼女はおびえたまま時折きょろきょろと視線を周囲に向けていた。
そんな彼女に、サソリは近づいていく。
「えっと、調子はどう? おかしいところとかない?」
「……えっ」
サソリが近づくのに合わせて、カバが後ずさった。こちらが止まると相手も動くのを止めて、試しにとばかりにサソリがまた少しだけ動くとカバも後退した。
避けられている様子に落ち込む。
「がーん」
「あ、あの、えっと……ごめんなさい」
淡い青色の毛をした獣。その額には深い赤色の宝石がついている。四本足で、丸っこい可愛らしい尻尾がふるふると揺れていた。
全身から困った様子をにじませている。
「その……どうしても、見た目が……怖くて。きっとすぐに慣れるので……」
「そんなに怖いの?」
本人であるカーバンクルではなく、すぐそばにいたカイトに向き直って訊ねる。彼はあっさりとうなずいてきた。
「昆虫の異様さと、魔物のおぞましさが同居した見た目ですね」
「…………」
言われて返す言葉もなく、のろのろとカバから距離を取る。
それからふと気になって、サソリはカバに訊ねた。
「じゃあ、僕とカイトくんだとどっちが怖いの?」
「……その、カイトさん、のほうが」
「おお」
「怖くない、です」
「…………」
一瞬で期待を裏切られて、サソリは頭を地面に押しつけた。なぜ悪魔に怖さで負けなければならないのか。何気なく尻尾を左右に揺らすと、万が一ぶつかるのを嫌がったのかその悪魔が避難していった。
未練がましく言葉をかける。
「ここにいた仲間で見た目が怖くないランキングを作ったとして、一位は?」
「……ケット・シーの、マタタビさんです」
「ああ、うん」
たしかにそうだろう。走り去っていった二足歩行の猫の愛らしさを思い出しながら、サソリは同意する。
ちょっと元気を出しながら声をあげる。
「じゃあ第二位!」
「ドラゴンさん、です」
「…………」
ドラゴンが怖くない、というのも不思議な気がする。が、他に幽霊だとか悪魔だとかがいることを考えれば妥当なのかもしれない。
さらに話を聞いてみると、三位が悪魔のカイト、四位が幽霊のユラユラだった。
「猫以外は凶悪な面子がそろってるのに、なんで僕が最下位……」
「実際、気持ち悪いですよ」
遠慮容赦なくカイトに告げられて、サソリはとどめを刺された。