118、ぶった切られる側
そろそろやってきて一週間。
見慣れた感もある寮の共用スペースで、疲れ切ったようにサソリは言った。
「なんかガイドさんたちって……。変な所で不便な部分とか、説明不足な部分とかあるよね」
この街の仕組みにしてもそうだし、魔物としてもよく分からない仕様があったりする。
帰ってきたサソリの様子に困ったようにしていたカバが訊ねてきた。
「えっと、そのぅ……。人間として、外に出ている参加者の人たちがいるんですか?」
「そう」
サソリはうなずいた。
自分たちは魔物の本を購入して魔物として戦うようにこの世界に連れてこられた。部屋にいるらしいマタタビは購入はしていないようだったが、些細なことだろう。
だが自分たちとは違って、人間の姿で戦うように連れてこられた参加者がいる。それはガイドから教えてもらったのではなく、この魔物の街で他の参加者から教えられたことだった。
「ガラスの王国、って呼ばれる魔物姿じゃない参加者用の街……街? まあ拠点があるんだって。ガラスの王から下されるクエストをクリアすることを目的にしてるとかなんとか」
「ガラスの王様……」
なにやら想像しているのか、カバがぼんやりとした口調で言った。
サソリは短く息を吐いた。
「魔物の参加者と違って紫色のオーラをまとって見えるみたいだね。襲ってくる可能性が高いから気を付けたほうがいいかも」
「は、はいっ」
視線を彷徨わせていたカバが、注意喚起の言葉にびくりと身体を震わせた。
テーブルに両腕をのせたグラが楽しそうに言う。
「人間の戦士も楽しそうだよなー。巨大なドラゴンをぶった切ったりしてな」
どちらにしてもドラゴンなんだ、とサソリは思ったが。
「今は倒される側になっちゃったんですねー」
ユラユラが容赦のないことを言っていた。