114、声かけたよ
「あの……ごめんなさい。その、怖がってしまって」
「いや、いいけど」
おずおずとしたカバの謝罪を受け入れる。彼女が謝ってきたのは当然のように街に戻ってからで、つまり怖いらしい魔物の姿でなくなってからだった。
そして当然のように、気持ち悪いと発言したカイトからの謝罪はなかった。サソリとしても謝罪をされるとは思わなかったが。
街の入り口からやや進んだところ。
後ろから大きな声が聞こえてきた。
「おおおおおい!」
聞きなれた声にふり返る。
ドラゴンではなく人間の青年の姿に戻ったグラが、こちらに走ってきていた。追いつくと肩で息をするようなしぐさを見せた。
思わずサソリたちは足を止めたが、少ししてグラは回復したのか言ってきた。
「気づいたらいきなり誰もいなくなってたからびっくりしたぜ。いくらなんでも、黙って置いてくのはひどいんじゃないか」
「声かけたよ」
「まじで?」
「ていうか、反応ないから身体もゆすったよ……」
「まじで!?」
愕然とするグラ。
マタタビが冷たい視線をグラに向けながら、けれども笑みを見せた。
「サソリさんは最後までグラをどうしようか悩んでたわよね。結局、全然反応しないしあの辺の敵なら攻撃されても大丈夫だろうって置いてったわけだけど。置いてかれたのはグラちゃんが悪いんじゃない?」
ちゃんづけで呼ばれてぐぬぬと唸るグラ。
その様子にサソリはため息をついた。このまま止まっていても仕方ないので、みんなで歩き出す。
「ずっとぶつぶつ言ってたよね」
「あー、かっこよさと強さの両立をどうするかと思ってな。今回の戦いのこともあるし、どう成長するか悩むだろ」
「まあ、たくさん成長点が手に入った分、悩みも大きいかもね」