109、幽霊とか
街をすぐ出た森の中。
「幽霊とか出てこないものかしら」
とマタタビが言った。肝心の幽霊はその近くでまったく考えがまとまらないらしく、上下左右にぐるぐる回っていた。
そちらを見ながら、けれどもユラユラのことを言っているのではないと分かりきっていたのでサソリは深く息を吐いた。
「影も形も見たことないけど。幽霊なんて敵として」
「えー」
霊体を切り裂く力と、そしてついでに広い攻撃範囲を手に入れた剣をぶんぶん振り回しながら、二足歩行の猫が不満げに声を漏らす。
だがそんな声を出されても、幽霊の敵は記憶にない。
「でも、いてもよさそうじゃない?」
「なんでさ」
「森で遭難とか」
「うーん」
「ていうか人間にとって、対魔物の最前線のひとつなんでしょ? ここ」
「そう言われてみればそうだけど。というか」
ふと思いついていった。
「精霊とかならいそうだよね。森のどこかに」
「…………おお。そうね。街に戻って情報集めれば見つかるかも……って、精霊って敵なの?」
「さあ……」
指摘されるとよく分からなくて、サソリは言葉を濁した。
つまらなそうにマタタビは剣を鞘に戻した。
「ままならないわね……っていうか、今度はサソリさんがカバちゃんから避けられてない? どうしたの?」
「…………」
サソリは沈黙で返した。