107、世も末
「こ。こまつば……!?」
サソリたちはようやく街に帰って一息ついた。
びしっと片手を上げて武器を強化しに行ってくると宣言したマタタビは、そのやたらと美人な外見とは異なる幼さを感じさせる態度、あるいは猫のような奔放さを見せつけた。
だが話の流れで、まずはみんなであの狼の仲間にお見舞いに行くことになった。
「今まで頑張ってた人が報告すればいいんじゃないの?」
「いや、みんなが来てくれればきっと雛子も喜ぶよ」
「まあ……そういうことなら行ってもいいけど」
というような流れだった。
肝心の言いだしっぺは今さら人見知りを発揮したのかサソリの後ろに隠れていたが。人を思いやろうとした気持ちだけは評価しようと彼は思った。
雛子という女性はよほど心配していたのか、狼の男が無事に戻ってきたことをとても喜んでいて、それから彼が連れてきたサソリたちを見て目を丸くした。
彼女は狼を手伝ってくれたサソリたちに感謝して頭を下げた後、その中のひとりを知っていることに気づいて固まった。
直後に叫んだのが冒頭のひとことである。
グラが首を傾げた。
「こまつば……?」
「あの、もしかしてなんですけど……」
カバがこそこそと聞いてきた。
そんなに小さな声でなくても、興奮しているらしい雛子には聞こえそうになかったが。
「マタタビさんって、ゆ、有名なかたなんですか……?」
「今度映画のヒロインやるって雑誌で見たよ。ドララゴってやつ」
サソリが答えると、カバは驚きの吐息をした。
カイトはまったく興味なさそうだったが、ぽん、とユラユラが手を合わせる。
「どおりでどこかで見たと思ったんですねー。サソリさんは前から気づいてたんですかー?」
「え、まあ……。本人がなにも言ってないから話題にはしてなかったけど」
しかしこれだけファンなんですとか騒がれていれば今さらだろう。
それから、グラが顔をしかめていた。
「実写化するのだけ知ってたけど、あいつがリリアンやるの? 世も末だな……」
その声が聞こえていたのか、雛子と話していたマタタビから罵声が飛んだ。